291話
どこまで言っていいものか。その塩梅がダーシャにもよくわかっていない。そのため、見るからに怪しさがどんどんと足されていく形に。
「うーん、どうなんだろうね……」
「……なんかはっきりしないわね。なにが目的?」
よからぬことを企んでいることはカッチャはもう見抜いている。店長がこんな狼狽しているということは、きっとなにか、その行為にマイナスな面があると思っているから。
相手の気持ちを考えれば、ここで詰め寄ってくるのはわかる。だが、秘密にしておいてくれと言われているダーシャは、その板挟みで不満は募っていく。
「まぁまぁ。騙されたと思って」
もう面倒になってきたので、力技で納得させる。なにか不幸な目に合わせようというものではない。というかさっさと首を縦に振ってほしい。
「……ま、いいわ。で? 内容は?」
かなりここにたどり着くまでに遠回りをした気がする。シンプルに終わらせる予定だったのに。もうカッチャにもどうでもよくなってきた。
「てなわけで。今日終わったらちょっと待ってて」
そう言い残してダーシャはキッチンへ。今日は基本的に調理を担当している。
その背中をジッと、それでいてジトッとした目で追うカッチャ。経験上、こういう時はだいたいロクなことにはならない。
「はぁ……なんなのよもう……」
別に急いで帰る用もないけれども。モヤっとしたものを抱えたままこのあと閉店まで。さてどうするか。視線を切ると、そこには同じ制服を着たひとりの少女。
「ウルスラ、なにか店長から聞いてる?」
声をかけたのはまだここでの日が浅い少女。こういうのは圧力をかけていけば口を割るはず。いや、なんか嫌な女だな、自分。
だが、当のウルスラはキョトンとして、
「なにがですか? 私はなにも。なにかあったんですか?」
と目を丸くする。プレッシャーに対しては耐性がある。なんでかわからないけど、もっと追い込まれそうになった経験がある、気がする。よく覚えていない。そしてその時を思い出すと。なぜか。頬が赤くなる。




