289話
ドイツには『閉店法』というものが存在し、日曜や祝日は終日閉店時間と定められている。スーパーなどの小売店は一部を除いて基本的には販売などはできない。しかしカフェやレストランなどの飲食店はこれに適用されず、判断は店に任されている。
友人や家族とゆったりとした時間を過ごすためには外食は不可欠、という側面もあることと、観光客も多いためこのようになっているわけだが、十一月頃からは特に書き入れ時となる。そのため——。
「ちょうどよかった。カッチャちゃんもさ、新作の意見もらえる?」
まったりとした時間。静かにお客がコーヒーと語らい合う店内で、そう声をかけたのは店長代理のダーシャ・ガルトナー。コーヒーも紅茶も北欧のテーブルウェアにも料理にも。満遍なくバランスよく知識を有する、この店の大黒柱。
「……なにが? それは時給の範囲内のこと?」
見るからに嫌そうな顔でカッチャは応える。決められたこと以上のことは基本しない。残業などもってのほか。効率よくこなすことが信条。
まぁまぁ長い付き合い。こう返ってくることはダーシャにもわかっていた。口角を上げてみる。
「それはキミ次第。あまり深く考えない考えない」
笑顔は世界を変える力を持っている、という映画『フォレスト・ガンプ』の名言を思い出したカッチャだが、どうもこの笑顔は世界を歪ませようとする悪の組織のものにしか見えなくて。
「で? どういうやつ? 味とかそういうのはビロルだし、テーブルウェアとの兼ね合いならオリバーくんのほうが良くないですかねー」
この店の連中の発言に裏がないことのほうが珍しいのだから。いちいちこんなところに反応していては、話も物事も先に進んでいかない。ならばと冷静に対処してみる。




