284話
他のお客達は、今まさにすぐ近くで、クイズ勝負が勝手に開催されていることに気づいてなどいない。あまりに自然。あまりに日常。あまりに正常。異常なのは。少女の鋭さ。
まさに。頭の中を支配していたカクテル。それを当てられたカッチャ。なに、ごと……?
「どういうこと? なんなの?」
このカクテルは、先ほど本当にたまたま思いついただけ。自分に飲まれるために、現在進行形で作られている状態の酒なわけで。なにをしたって、他人からふと出てくるようなものじゃない。それ、なのに……。
タネも仕掛けもない、とばかりに少女は両手を上げて見せた。
「ただのゲームさ。あなたのここにたどり着くまでの歩き方、年齢、表情、反応。そんなところから読み取った、僕なりの遊びだよ。間違ってても問題ない。遊ぶことが目的だから」
なので、実際にはそこまで飲みたいわけでもない。出されたら飲むけど。すでにこのクイズへの興味は失った。
意味、がわからない。わからないが、ひとまずここから離れようとカッチャは投げやりに了承。頭は真っ白。
「……クイーンズ・ガーター、ね。ちょっと待ってて——」
「ダメじゃないか。僕はまだ未成年だよ。保護者もいないでひとりで来てるんだから。青少年保護法の第九条に違反するんじゃない? それはお姉さんに奢るよ。僕はエスプレッソで」
クスクスと声を殺して少女は笑う。困らせてしまったお詫び。やはり街にくりだすと面白い、に出会う。
エンダイブを噛んだ時のような、苦味をカッチャは顔で表現。深呼吸しても色々と。色々と癪に障る子供への静かで低温の怒りの炎が燃え上がる。
「……なーんかムカつくわね。からかって楽しい?」
柔らかく撫でるように神経を逆撫でしてくるというか。声を荒げるほどでもないんだけど、冷静さを失わせるような。そんな口調で。ピリッとしてくる。




