281話
正論ではあるが、ここまで突っ張ってしまうと、カッチャとしてもなんだか引けなくなる。
「別にいいじゃない。アルコール度数も低いから酔わないわよ。あんたも自分のぶん作って飲めば」
店長のお酒でもあるので、バレたら怒られるかもしれないが、その時は二人なら半分ずつで分けられる。道連れ。
なんだかんだと理由をつけて飲もうとする姿勢にビロルは押され始めるが、いつもなら就業中にこんなことを言ってくることはなかった。むしろ注意する側。
「なんかあったのか」
中々に珍しい日。まぁこいつも一応は年下だし。女だし。聞くだけは聞いてみる。手伝ってやるかは別。
こいつはこういう鋭いところがたまにある。辞めようか悩んでいる、別に隠すことでもないし、最初に言うならこいつが一番いいかもしれない、とカッチャも変な信頼はある。だが。
「店がまわせてればなんでもいいのよ。作ったスイーツ食べるのよりマシでしょ」
今は、言わない。決めきれないから。宣言して場をかき乱す必要もまだないだろう。
「……たしかに」
言われてみれば、ビロルとしても自分だけ苦労すればいいだけなのだから、お客さんに迷惑はかからない。全部それっぽく適当に混ぜればいいだけ。思考がそっちに持っていかれる。我ながら単純かもしれない。
「じゃ、頼んだわ。美味しく作ってよ」
「……ま、悩め悩め。楽に生きようとするな」
壁に寄りかかってみる。視野が広がる。店内が見渡せる。あぁ、私は今ここで働いているんだな、とそんなことをカッチャはしみじみと。
「……聞かないの?」
窓越しに会話を続ける。こいつはギムナジウムの時に働いていたんだろうか。もしそうなら、どんなふうに過ごしていたんだろうか。さほど気になるわけでもないが、なんだかそんな気分に。




