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14 Glück 【フィアツェーン グリュック】  作者: じゅん
ビリヤードとダーツ。
280/319

280話

 自分でコーヒーとは言ったものの、なにを飲みたいかまでカッチャは考えていなかった。コーヒー。となるとユリアーネ。それが液体に混ざっていくと、ひとつの答えにたどり着く。


「……クイーンズ・ガーター」


 ピク、と目をパチパチとしながらビロルは反応。そして。


「おい」


「なによ」


 キツめの口調にカッチャも強気に出る。こうなる気はしていた。もし自分でもそう返す。なので目は逸らす。


 腕を組んだビロルは少々奥歯を強く噛み、心の中で「そこまでしてやる義理はない」とばかりに目を細めた。


「せめて店で提供してるものにしろ。なんでいちいち従業員のためにそこまで凝らなきゃいけねーんだよ」


 これがもし。お客さんからの要望であれば、メニューにはないがやらないこともない。常連であればなおさら。だが。同じ立場の相手になぜやらねばならんのか。お土産まで区別されている。となると、より拒否してやりたい。


 クイーンズ・ガーターとは、温めたタンブラーにホワイトペパーミントリキュール、カルーア、ドランブイという三種の酒とホットコーヒーを混ぜ、ホイップクリームを飾るカクテル。甘口でコクもあるため、女性にも人気がある。


 セクシーすぎる名前で、ちょっとユリアーネからは想像しづらいところもあるが、つい口を突いてしまったんだからカッチャとしてもしょうがない。


「不意に飲みたくなったから。そういう時もあんのよ、こっちは」


 色々と悩みがあって。甘いお酒が飲みたくなることもある。もしかしてアニーがよく紅茶を飲んでいるのも、こういう感じなのか。いや、絶対違う。あれとは。絶対。


 偶然にも材料自体はあることはビロルも知っているし、作り方もわかる。だが、それとこれとは別。というか、なんか色々と面倒な点も多いため、自分で飲むならまだしも、わざわざ作ってあげるものではない。


「働いてる最中に酒飲みたくなる、ってどんな時だよ」

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