280話
自分でコーヒーとは言ったものの、なにを飲みたいかまでカッチャは考えていなかった。コーヒー。となるとユリアーネ。それが液体に混ざっていくと、ひとつの答えにたどり着く。
「……クイーンズ・ガーター」
ピク、と目をパチパチとしながらビロルは反応。そして。
「おい」
「なによ」
キツめの口調にカッチャも強気に出る。こうなる気はしていた。もし自分でもそう返す。なので目は逸らす。
腕を組んだビロルは少々奥歯を強く噛み、心の中で「そこまでしてやる義理はない」とばかりに目を細めた。
「せめて店で提供してるものにしろ。なんでいちいち従業員のためにそこまで凝らなきゃいけねーんだよ」
これがもし。お客さんからの要望であれば、メニューにはないがやらないこともない。常連であればなおさら。だが。同じ立場の相手になぜやらねばならんのか。お土産まで区別されている。となると、より拒否してやりたい。
クイーンズ・ガーターとは、温めたタンブラーにホワイトペパーミントリキュール、カルーア、ドランブイという三種の酒とホットコーヒーを混ぜ、ホイップクリームを飾るカクテル。甘口でコクもあるため、女性にも人気がある。
セクシーすぎる名前で、ちょっとユリアーネからは想像しづらいところもあるが、つい口を突いてしまったんだからカッチャとしてもしょうがない。
「不意に飲みたくなったから。そういう時もあんのよ、こっちは」
色々と悩みがあって。甘いお酒が飲みたくなることもある。もしかしてアニーがよく紅茶を飲んでいるのも、こういう感じなのか。いや、絶対違う。あれとは。絶対。
偶然にも材料自体はあることはビロルも知っているし、作り方もわかる。だが、それとこれとは別。というか、なんか色々と面倒な点も多いため、自分で飲むならまだしも、わざわざ作ってあげるものではない。
「働いてる最中に酒飲みたくなる、ってどんな時だよ」




