279話
「は? 土産?」
〈ヴァルト〉店内にて、少々怒気のこもった声のカッチャ。それもそのはず、クリスマスマーケットが近づいてきたベルリン、ひいてはドイツ国内は観光客がどんどん増えてきている。この店も例外ではなく、普段より忙しい夕の時間帯。
それなのに。アニーからの土産の話という、正直どーーーでもいい、今話すことではない内容。ありがたいけど。うん、ありがたい。ひと息ついた瞬間とはいえ、着席率の高い現状ではいつ、次の注文が入るかわからない。
キッチンとホールを繋ぐ、料理の提供のための窓。そこから顔を出しながらビロルは不満かつ楽しげな声色。
「そう。なにもらった? ちなみに俺と店長は、いー感じの塩。知ってんぞ、アニーから色々もらってんだろ。男女で差があんだよ」
ちなみに、その塩は現在調理で使っている。つまり、完全な自分用というものは無い。笑顔の奥に暗い影。いや、誰かが悪いわけじゃないんだけど。
男女差。それはカッチャも初めて知った。たしかにもらったもの全部、全員に配るのは大変だなとは思ったけど。
「まぁ、それなりに。でもそれならウルスラだってそうでしょ。同じようなもんじゃない? てか、無駄口叩いてるならコーヒー。ちょうだい」
軽く休憩。してるヒマもないので、喉だけ潤したい。こんな日に限ってアニーもユリアーネもウルスラもいない。女の子がいないと潤いが足りていない気がする。アニーしかいなかった時は感じなかったのに。二人も増えると基準値が変わる。
「へーへー。で、エスプレッソか? ドリップか? それとも紅茶か?」
まぁ、勝手に休憩するヤツよりかはいいか、と不満そうにしつつもビロルは従うことに。女性には基本的には譲ることしている。そんな手間のかかることでもないし。




