277話
並べられたボトルをキョロキョロと見回しながらアリアデリアが眉を顰める。
「うーん、なにかオススメある? 面白いもの。人のお金だとより美味しく感じるような。自分のお金だと頼みたくないような」
問われてもカッチャも困る。自分のぶんも適当なのに。そんな条件を付け足されても。
「そういうのはバーテンダーさんに聞いたほうがよくない? まぁ、私なら……」
一番に頭に浮かんだもの。それにしよう。クリアにクリアに。全カクテル平等に。じわじわっと歪んだ画像が形を成していく。そして。
「……ロングアイランド・アイスティー」
見えてきたもの。アニー。なんで?
初めて聞いた名前にアリアデリアは困惑する。
「アイスティー? 紅茶?」
どちらかといえばアルコールが欲しいんだけど。アイスティーはまぁ、飲むし好きだけど。今じゃない感。
「……」
なんだか。恥ずかしくてカッチャは無言。〈ヴァルト〉のことが抜けきらない。ロングアイランド・アイスティーとは。言って後悔……じゃないけど、なんだか納得がいかない。
注文を聞いていた私服のバーテンダーも少々の驚きを見せる。材料自体はメジャー。だが、頼まれることなど今までにあったかどうかすらも。
「よく知ってるね。たしかに面白い。でも……」
チラッと視線が自分に流れてきたことをルーカスは悟った。
「? 俺? 俺がどうした?」
そのロングアイランド・アイスティーとやら。彼女達に作ってあげたらいいじゃない。そんな表情。どんな味かは知らないけど。
しかしその視線の移動の理由をバーテンダーは明かす。
「飲めるとしたらあなただけだね。キミ達はまた違うもの」
「え、マジ? 気になるんだけど。どういうこと」
そこまで言われると逆にアリアデリアは、そのロングアイランド・アイスティーが気になってきた。というか意地でも飲みたくなってくる。置いてけぼりにされるのは勘弁。




