274話
「そう見える? 別にそんなでもないけど」
と返すカッチャだが、言われてみればたしかにダーツの調子は悪い。いや、元々そんなでもなかったかもしれないが、ストレスで鈍るほどの腕前でもない。単純にそういう日。世界大会を目指しているわけでもない。息抜きだから、上手くいかないこともそりゃある。
そろそろマイキューも買ってもいいかな、なんてことを想像しつつアリアデリアは、相手が熟考している台を見つめる。
「学校? 家? 人間? バイト?」
少し探ってみる。横目でチラリ。どれもこれも人間関係な気もするが。選択肢に入れるべきじゃなかったか。
顔色ひとつ変えずにカッチャは向こう側の壁を見つめながら、その中では一番近いかと思われるものを選ぶ。
「強いて言うならバイト、かな。人が嫌とか、仕事内容が嫌、とかじゃないんだけど。このまま働いていていいものか」
一応は学生なわけで。卒業に向けての準備とか。そういうのに向けて勉強もしたいところだけど、どっちつかずに中途半端。ならいっそ、意を決して辞める……というのもアリだが、辞めてもそれはそれでやる気が湧いてこなさそうで。間をとって、シフト減らすか。うーむ。
ドイツでは一発勝負の大学受験というものはなく、ギムナジウム卒業資格である『アビトゥーア』さえ取得できれば、医学部などではない限りほぼどの大学でも入ることができる。『アビトゥーア』は学校の成績プラス、質疑応答のプレゼンテーションや、論述式の解答で思考と知識を試される。
そして、いざ大学は入学するとほとんどが公立で学費は無料。そのため、長期間行かずに世界一周をしてみたり、ひたすらに一年間働いてみたりする者も。
なので、バイトに精を出すなら今でなくてもいい、気がする。というか、そのほうがよくない? モヤモヤを抱えたまま働いてもミスも増えるだろうし、勉強が手につかない。




