273話
きっとこういうとこにはユリアーネは来ないんだろうな、そう物憂げな瞳でカッチャは店内をぼんやりと眺めている。騒がしい、わけでもない。危険、なわけでもない。ただ、なんとなく。もしかしたら意外と、なんてことも頭によぎったが、ないない、と自分で否定。
薄暗いバー。とは言っても、酒をメインにしているような店ではなく、ビリヤードやダーツがメインのそういうタイプ。ビリヤード台を照らす天井から吊るされたライトと、隅にあるカウンターのクリムゾンレッドの間接照明。非日常感。でもちょくちょく来るため、日常になりつつある。
ドイツでは度数が弱ければ一六歳から酒が飲める。そういえばアニーもユリアーネも飲んだって言ってたっけ、そんなことを思い出した。酒が嫌いなドイツ人はいない、わけでもないけど、少なくとも知り合いにはいない。度数弱め、の基準もよくわからない。
ダーツ。最初はとりあえず真ん中に投げとけばいいと思っていたが、ルールによって全く違うし、大逆転も可能なので最後までハラハラするのがいい。勝負、という勝負ではないし、ワイワイやりながら酒代場代を誰が払うのかゲームするくらいなもの。
ビリヤード。店によってマッセという、上から撞くショットは禁止されているらしい。理由はラシャという敷いてある布が、初心者がやってミスをすると破れるから。禁止されるとやりたくなる、なんてこともなく「へぇー」で終わった。普通。普通でいいのよこっちは。
「なんかストレス溜まってそうだね」
壁に寄りかかるカッチャに声をかけてきたのは、その同級生で友人であるアリアデリア・フレーベル。ビリヤードのキューを持ちながら、次のショットのことを考えつつ。
勝負している相手は、ここでさっき初めて会った人。老若男女、気が合えばゲーム開始。勝っても負けてもどっちかが一杯奢ったり。そんな風にフランクにゲームを楽しむためのバー。ひとりでも楽しめる。まさにストレス解消のための場所。




