272話
とはいえ別に呆れたり怒ったりするわけでもないビロル。顔を顰めながらも妙に腑に落ちる。
「とか? 明らかに男女で差をつけてきたな……なんとなくだけど、男用はネットで調べて人気のあったもの、女性用は自分で色々吟味した結果な気がするな」
駅付近で適当に、という線ではなさそう。むしろ用意周到に事前に計画していたまである。「うーん、まぁ、ビロルさんとオリバーさんと店長は適当っていいっス」とか言いながら。いやいや、オリバーくんとは北欧の食器とかカップとかで意気投合している仲。普通にそこも分けられているかもしれない。
〈ヴァルト〉のテーブルウェアは基本的に、様々な北欧のブランドのものは大半。なので若干統一感はない。もうすでに製造されていないものもあるが、万が一に割れてしまっても「そういうもの」と悲しみながらも受け入れている。オリバーはそのひとつひとつに名前をつけているほどの愛し方。
苦々しい表情になりながらもウルスラは肯定するしかない。まさかそんな違いがあるとは今知った。
「そう……かも」
なにか、食べ物はみんなでシェアしたほうがいいのかも。どうしようか。でもアニーは自分に買ってきてくれたものだから、それをみんなに分けるのはどう思うだろうか。なにも思わなそうだけど。
自分達は塩。それに対し色々な詰め合わせ。目をパチパチさせながらもビロルは「ふぅ」と息を吐く。
「ま、もらって文句を言うのもおかしいわな。感謝はするけど納得はしていない。そんな感じ」
一応、次に会ったらヤツには詰めておこう。なんの差だと。
よし、ひとまず自分の話はこれで区切って。手を叩いてウルスラは不安を一蹴してみる。
「今日はカッチャさんは休みですか? どんなものもらったとか、聞いてみようかと思ったんですけど」
たぶんだけど。塩、だけではないだろう。巻き添えを作りたい。この罪悪感も、ひとりじゃなくなればきっと和らぐはず。というわけで心の中でお願い。
カッチャ・トラントフ。面倒見が良く、頼れる姉御肌な人物。調理もできる。アニー達より年齢も上で、この店の暦も長い。
「たしかに気になる。ここの店で一番権力持ってる人間だからな。ウルスラちゃんのと同じか、プラスアルファ」
自分のほうが年上なのに、ビロルとしても彼女にはギリギリ頭が上がらない。ある意味で店長より店長らしい。ダーシャがいない時は彼女が代理。決めていないけど。
なにをもらっても「あー、ありがと」という感じで、もし塩だけだったとしても文句を言わずに受け取るタイプではある。だが、ウルスラとしてはできれば。
「そうだとありがたいんですけども」
さらに紅茶のセットとか。なんかそういう、誰もが彼女なら仕方ないか、と納得しそうなものを受け取っていてほしい気もする。




