表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/319

263話

 なんとなく、叱責された時の様子が容易に想像できたユリアーネ。一瞬の間を置いて笑いが込み上げてくる。


「……私達、似てますね。それでは、ぜひ自宅で使ってみましょうか。この茶香炉もいただいちゃっていいんですか?」


「当然っス。ボクも形はちょっと違いますけど、家にありますし。火っていいっスよね。キャンプでも焚き火って人気みたいですし。なんとなくわかります」


 まだ蝋燭に火をつけていないのだが、とろんとした目つきのアニーにはなんとなく見えてくる。ついでにポケットに入っていたマッチもテーブルの上へ。一応買っておいた。


 文明が進んだことで、火を起こす事というのは必須の条件ではなくなった。電気やガスを使えば、指先ひとつで簡単に作り出すことができる。だからこそ、この面倒ともいえる行為が現代の喧騒を忘れさせてくれる。揺れる炎。パチパチと薪が焼かれる音。遺伝子に刻まれたリラックス効果。


 そういえば、と天井をユリアーネは見上げると、ひとつ提案。せっかくなので雰囲気も大事に。


「電気、消してもいいですか? 蝋燭の火を感じていたくて」


 暗くて静かな炎。それを眺めて今は過ごしたい。


 もちろん、とアニーはマッチをつけ、蝋燭へ。


「では消しますね」


 壁のスイッチを押す。すると室内は間接的な照明となり、明るさは落ちるがどこか静謐な空間へと変わる。外の風の音。呼吸音。それがより強調され、お互いに顔を見合わせる。


「不思議、ですね。今、ここにいるのが」


 なんだか望郷の念に襲われ、自分の立ち位置がわからなくなるユリアーネ。だが不安があるわけではない。ワクワクするような高揚感のほうが強い。ベルリンから離れるというのも久しぶり。今になってやっと実感してきた。


 ほのかに香りだす茶葉。それに乗って故郷の風景がアニーには思い出される。


「そうっスね。ボクには都会過ぎて目まぐるしいっス。たまにフリースラントの天気とか調べちゃいます」


 出てきて最初の頃は、天気が全然違って予報を恨んだもの。徐々に慣れてきて、今ではちゃんとベルリンを調べている。今日は曇りらしい。パリも似たようなものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ