261話
中から出てきたもの。それはまるで暖炉の形をした陶器。付属品として台座の木片。受け皿。そしてキャンドル。この四つ。
見覚えがある。答えを言いかけたユリアーネだが、同時に違和感も。それゆえ、喉まで出かかった言葉を一度寸前で止め、疑問形で問う。
「これは……アロマポット? いえ、それよりもこう、なんというか東洋的な……」
受け皿にオイルを入れ。そして熱して香りを放つもの。一旦茶葉は無視するとして、これはそういう系統のはず。だが、どこか質感というか雰囲気というか。知っているものとは違う気が。
模範的な受け取り方をしてくれて、買ってきたアニーとしては内心でしてやったり。中では一番西洋感のあるものを選んではみたのだが。
「この陶器は『茶香炉』というものです。日本のアロマポットみたいなものですね。ボクはこっちが好きなんです」
チョン、と指先で触れてみる。冷たい感触。
茶香炉は二〇世紀後半に日本で誕生した器具。使い方としては、アロマポットが熱によって受け皿の精油を揮発させるものに対して、茶香炉は茶葉の香りを発散させるものである。
ならば完全に別物か、と言われるとそういうわけでもない。お互いに代用できるため、両方持つ必要はないのだが、明確に違う点がある。それは熱する『温度』。茶香炉のほうがかなり強く熱する。
そのため、アロマポットで茶葉を熱すると優しくほのかに香り、茶香炉で熱すると少々早く、広範囲に香る。このあたりは好みと部屋の大きさにも変わってくる。
へぇ、と喜色を浮かべてユリアーネは至近距離からじっくり観察。
「こういうものがあるんですね。たしかにこれは初めてです。紅茶の茶葉にこういう楽しみ方が」
乗っけて燻らせる。それによって茶葉の持つ香りが放たれる。なるほど。たしかにこれも紅茶の楽しみ方。じっくりと温めてくれる。
そしてご指名の赤い缶を開け、受け皿に少量の茶葉をアニーは乗せる。着々と準備が進む。
「たとえば飲み切れなくて期限を切らしてしまった茶葉などがあれば、こういった形で利用するのもアリですね。それにこれのすごいところは——」
「ところは?」
固唾を飲んで一連の流れをユリアーネは見守る。なんだか全部任せてよさそうなので。




