257話
アニーが離れた今。その間を縫ってきてくれたことにシシーは安堵する。
「いつ話しかけてくるのか気にはなっていた。アニエルカさんはとてもいい子だよ。きっと仲良くなれる」
いい提案。距離感の近い女友達が多いに越したことはないと、グウェンドリンも乗り気。たぶん性格も合う。
「それは嬉しい。けど今日の目的はあなた」
耳元で囁くように。ついでに軽く息も吹きかけてみる。さらにさらに胸元にも触れちゃってみる。
それを表情ひとつ変えず、むしろ楽しげに、受け入れるようにシシーは。
「聞こうか。危ない話なら大歓迎だ」
本当に休む暇もなく刺激が押し寄せてくる。満足することもできない。
そうこなくちゃ。とはいえ、いつアニーが戻ってくるかはわからない。どちらにも迷惑をかけるわけにはいかないので、グウェンドリンは喋りたいことは色々あるものの、わりかし単刀直入に。
「『蜜のあるところに蜂はいる』。まとめるとこういうことなんですけど」
でもほんの少しだけ困らせてみる。まぁ、通じるでしょうという信頼を持って。
ふむふむ、と理解を示すシシー。なるほど。その言葉の元。
「『Ubi mel, ibi apes』。ラテン語の諺だね。なるほど、つまり近くに美味しそうな蜜が溢れているということか」
「そっちじゃない。逆です、逆」
「逆?」
グウェンドリンの指摘にシシーは虚をつかれた形になる。
今度は右手人差し指でシシーの胸元をトントンと押すグウェンドリン。人が周辺にたくさんいるはずなのに。声が騒々しく響いているはずなのに。二人のいる空間だけは切り取られたように神聖で。
「蜜はあなた。すでに刺されたら一発であの世行きな、怖い蜂があなたを見つけてしまった。今、この近くにも」
そうして周りを見渡す。彼女にもどこいるのかはわからない。だが確実に。吐息さえも感じるほど近くに。いる。危険な毒を持った者が。
その荒く野生的な呼吸。目を閉じればシシーにも伝わってくる。ビリビリと、ジリジリと、灼けるような熱い視線。
「それはありがたいね。伝えておいてくれ。毒の蜜は甘いのか、それとも苦いのか。興味がある。ぜひ感想を聞きたい」
それは捕食者にしかわからないから。それまで、できるだけ濃厚な味にしておくと約束する。どちらに偏るかはわからないけど。全身を味わってほしい。




