256話
すぐに切り替えてアニーは決意。こういったプライベート的なことは口外しないが吉。
「ひとつしか違わないはずなのに、すごく大人に感じて。いや、これはみんなには秘密にしておくっスよ」
大統領と食事とかしてても驚かない自信がある。そんな人物の隠れた一面を知ってしまった。これは墓まで持っていく。
別に構わないけど、と前置きをしつつシシーは謝辞を述べる。
「まぁ、積極的に広められても困ることもあるかもね。色々と根掘り葉掘り質問されるのは大変そうだ。そうしておいてもらえると助かるよ」
心に深く刻み込み、この話はここらで終えつつアニーは自分の目的にシフトチェンジする。
「わかりました。じゃあボクも買いたいものがあります。ちょっと待っててほしいっス。終わったら、地上階に集合で」
ユリアーネは持っていなかったものが必要になる。なので、茶葉だけでなく買ってこなければならないものがある。そしてそれはここにはない。このデパートには食料品や雑貨品などの別館もあるため、そちらにならあるはず。人混みにぶつかりながらエスカレーターへ。
「やれやれ。忙しい子だ」
紅茶缶の詰め合わせセット。とりあえず買ってしまおう。それを持ちながらシシーが会計に向かおうとした時。
「可愛いものですね。まるで子犬みたい」
背後から語りかける女性の声。子犬、とはアニーのこと。いいなぁ、従順で。私も一匹欲しい。寮だと飼えないからなぁ。
ゆっくりと振り返るシシー。ちゃんと、しっかりと笑顔は作ってある。今はまだ、優等生シシー・リーフェンシュタールで通しているから。
「グウェンドリンさん。奇遇だね、キミもお土産でも選びに来たのかな?」
そんな聖者のような輝きを放たれても。モンフェルナの制服にカーキ色のコートを着た、グウェンドリンと呼ばれた少女は少々焦る。
「白々しいですよ。私が尾行してたのバレてましたよね。学園から」
気づかれていたことに気づいていた。一度でもこちらを確認したわけではない。だが、牽制されていたような空気感は突き刺さってきていた。「今は邪魔するな」と。楽しい時間なのだから。そんな無粋なことなんてしないのに。




