251話
あるかどうかわからない、もしくはない、となっても一応の解決手段をアニーは用意していた。それゆえにデパート。
「もしなければ、ソレもたぶん買えましたから。ここを選んだのはそういうところもあります」
そしてユリアーネのためにも同じものを買おうとしていたわけで。すぐにバレてしまったけど。
「なるほど。やっぱりキミに頼んでよかった。俺には全く思いつかなかったし、知らない人も多いだろうから。面白いと思うね」
自分の勘を褒め称えつつ、シシーは入り口に向かって歩き出す。まだまだ喋っていたいけど、それはこのあとのお楽しみとして残しておこう。エルドベアトルテのイチゴは最後に食べるタイプ。
それに続くアニー。遅れないようにトタトタとついて行く。
「ありがとうございます。さて、入りましょう」
期待に胸膨らませながら回転式のドアを押す。館内は地下一階から四階の全五フロア。フロアごとに特色があり、地上階はラグジュアリーブランドがひしめき合っている。上の階にはレディースファッションのエリアや免税コーナーなど、わかりやすく配置。
特徴的な格子状の吹き抜けエスカレーターホール。季節によって様々なアート作品が天井から吊り下げられており、客足を集める要因のひとつとなっている。その中で目当ては地下一階。
「なんだか不思議な気分だ。この中全てが芸術作品に見える。その胎内にいるみたいだ」
エスカレーターで降りながらシシーは、詩的な感想を述べる。吹き抜ける風が気持ちいい。どこか冷んやりと、だが温かみも感じる。歴史の温度? そんなものがあるのかな。自然に笑みが溢れる。
なんだか喜んでもらえているようで、すすめたアニーも大満足。
「ボクもネットの映像とか写真でしか見たことなかったですけど、実際に来ると全然違うっスねぇ。感動です」
ゆっくりとしたスピードで降りていく。その途中、逆に地下から上がってくる反対側のエスカレーターの、陽気そうなカップルと挨拶。気分がいい時は誰であっても挨拶をしてしまう、たぶんフランス人。




