248話
つけることはないが、そういったところもアニーは把握している。飲むだけが紅茶ではない。
「たしかにグッチとかジルスチュアートとか、そういった有名なとこにもありますけど、ボクが考えているのはそういうのじゃないんスよ」
そしてさらに広がっていく無限の可能性。今日選ぼうと思っているものはそういう種類。
「? アロマオイルとかでしょうか」
たしかそういうものもあると。室内を、ほんのりと香る癒しの空間に仕立て上げる。
パッと明るい表情になりつつも、アニーが想像しているものは少しだけ違う。
「惜しいっス! けど秘密です。今夜のお楽しみにしておいてください」
せっかくなのでお土産に。お返しになるかはわからないけれども。喜んでくれたら。髪飾りに触れて合図。
それをユリアーネも察知。これ以上問い詰めるのは無粋というもの。
「わかりました。ワクワクしながら待ってます」
たった数時間後に判明する楽しみ。それまで仕事を頑張るだけ。我慢。今は。
そうこうしているうちに、アニーは街角のとある建物の前で止まる。荘厳で上品な、いかにもパリらしい建築。通りが車道で途切れるまで続くほどの大きさの建物。その入り口にあたるここが、シシーと待ち合わせている場所。
これからユリアーネは〈WXY〉に向かわねば。今日もきっと混雑しているだろう。気を引き締めて。
「それでは。またのちほど」
夜。どんなものなのか。予想だけしておこう。ワンディさん達にも聞いてみるのも楽しいかもしれない。
寂しそうにその背中を見送ったアニー。目線はそのまま、建物を上まで見上げる形に。大きな広告が提げられている。角なので、右から来ても左から来ても見える。よくわからないがブランドものの新作でも発売したらしい。
「うーん、立派っスねぇ。やっぱこういうのも憧れっスよねぇ」
故郷のフリースラントには流石にこういったものはない。大きな建物といえば風車。ベルリンに来た時もカルチャーショックだったが、さらに洗練されているような。いつまでも見ていられる。




