246話
話を戻すアニー。話題はシシーとの買い物について。
「なんでも、アロマとか香水が好きらしいので、そういうのを買いたいらしいんですよね。そのために手伝ってほしいと。しょうがないっスねぇ、全く。有能な人間は忙しいっス」
ハンガーでもかけられそうなくらいに鼻を伸ばして傲慢に。やれやれっス。
香りのするもの。それと聞いてユリアーネも納得せざるを得ない。
「なるほど。となるとアニーさん以上の適任はいないですね。仕方ないです。パリ限定のものもたくさんあるでしょうし、通販では試せないですし」
素敵なお土産。もし私がそういったものを贈れるとしたら。思い当たるのは、友人というだなんて恐れ多いけれども、以前お話しさせていただいたララ・ロイヴェリクさん。なんだか似合いそう。というか、絶対に自室とかいい香りがするはず。
また来てくれると言っていたため、もし会えた時のために購入しようかと一瞬悩んだが、一度会話しただけのカフェ店員に渡されるとか、なにか警戒される気もするため、今回はお預けに。
なにやらいいことを考えてるっぽいっスねぇ、と悶えるユリアーネの感情を読むアニー。とりあえず自分にできることは。
「でもボクの場合だと紅茶だけですからねぇ。それ以外はわからないっス」
一点に突き抜けたパラメーター。もしシシーに勝てるとしたらそこのみ。でも呼ばれたということは、そういうこと。
そして『嗅覚』という単語について考えを巡らせていたユリアーネだが、ひとつ引っかかる点がある。
「だとすると、先日話されていた方は? そちらの方のほうが詳しい気もしますが」
香りを音にする人物。クラシック音楽にも長けており、自作の香水まで作るほどに本格的。贈り物ということであれば、紅茶に限っただけよりも選択肢が増えるのでは。深まる謎。
それについてアニーも同じことをすでに聞いていた。
「ボクもそう思うんスけどねぇ。その方も色々と忙しいみたいですし、そこでボクに白羽の矢が立ったわけですから。これは信頼の証でもあるはずなんスよ」
根拠はないけど。だが、すでにこちらの人達とも打ち解けているシシーが、現地人の地の利を使わずに指名されたということは。つまりそういうこと。胸を張る。




