239話
モンフェルナ学園、音楽科ホール。
古代ローマのアンフィテアトルムをモチーフとしたクラシック専用。中央の舞台を中心として、すり鉢状に円形で配置された観客席。舞台の背面は反響の木材が湾曲して形作られている。左右にひとつずつ搬入や入場のための出入り口。その上部は二階席のような形で客席を配置。
天井も湾曲させ、壁にはホワイトオークを使用しており、音響という点では最高級のもの。日本のサントリーホールを参考にして設計されており、いち学園のホールとしては申し分なさすぎるほど。
その舞台には一台のピアノが置かれている。ハンブルクスタインウェイのフルコンサートグランド。そしてそのホールでの残響音などを計算された調律。
「やぁ、アニエルカさん。今日も可愛いね」
スポットライトが当たるその場所で。ケーニギンクローネの制服を纏ったシシー・リーフェンシュタールはイスに座りながらにっこりと微笑んだ。
「……ありがとうございます。それで、なにか用っスか?」
褒められているのだが、どこか全てを褒め言葉として受け入れられないような。そんな複雑な表情を浮かべながらアニエルカ・スピラは同じく舞台の上で真意を問う。彼女はせっかくなので、とモンフェルナの制服。なんでここで?
視線を手元の鍵盤に移したシシー。ひとつ適当に押す。すると切なくも乾いた音が響いた。
「つれないね。アニエルカさんは『愛』ってどんなものだと思う?」
そして視線はまたしても少女へ。キミの意見が聞きたい。愛とは。キミにとっての愛とは。
唐突にそんな命題を突きつけられても。ただただアニーにとっては困る質問。
「『愛』っスか……? 愛は……その人のことが好きとか、一緒にいたいとか」
形を、実態を伴わないふんわりとした感触。ずっと昔から愛を歌った曲は多いし、会話でもなんとなく通じるものがあって。だがそれならばどういうものなのか? といざ聞かれると、上手く説明ができない。




