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236話

 その夜。


「もらっちゃっていいんスか? この花のコサージュ」


 寮にて、労働から戻ったアニーはベッドに腰掛けながら呆けた。疲れと充実した日々。明日何時に起きてシャワーを浴びようか、と悩んでいた矢先だった。いや、やっぱ明日浴びよう。


 その隣。お疲れ様です、と労いながらユリアーネが肩を寄せる。


「はい。そのために買ってきたんですから。とは言っても、リディアさんが、ですけど」


 少し恥ずかしそうに。偉そうなことを言ったものの、今日自分は一切お金を払わず、食事と買い物を楽しんでしまったわけで。そして隣の少女は働いていたわけで。糾弾されても文句は言えない。


 口を半開きにして込み上げる嬉しさを噛み締めながら、震える手で受け取るアニー。そして感謝を伝える。


「ありがとうございます! 綺麗な花ですね。あ、ラメも入ってるんスね。あとでお礼を言っておかないと」


 天井のライトに照らしてみる。よりキラキラと光り輝き、まるで宝石みたいだと率直な感想。オレンジ色というのも元気が出る。


 喜んでくれたのことでひとまず安心するユリアーネ。あまりアクセサリーの類をつけていることを見ないので、気に入ってくれてよかった。渡すまでずっとドキドキしていた。


「私も改めて言っておかないと。一緒に言いに行きましょう」


 笑顔が見れたのならそれを超えるものはない。エンゼルランプという名前を教え、左耳付近に付けてあげた。うん、似合う。


 お返しにとアニーも白い花を、こちらは反対に右耳に。お揃いのようで、目が合うとはにかんでしまう。


「それにしても桜のプリンっスかー。ボクも食べたかったっス」


 そして聞いた話によると、そんな美味しそうなものまで。桜、いい香り。春になるとドイツでも至るところに咲く。それを一緒に見上げているところまで想像できた。花びらが舞い散る中のユリアーネもきっと綺麗。いや、絶対。お花見。好き。


「いるうちに、こちらもまた伺いましょうか。予約が必要みたいなので事前に。お金は取れないそうですので、お返しの品でも持って」


 短い時間だったにも関わらず、なにからなにまでお世話になってしまったことに恐縮するユリアーネ。パリに来てよかった、これだけでもそう思う。

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