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233話

 というのも、特にユリアーネは今回なにもお金を払っていない。後ろめたさはそこからきている。


「それはそうですが……ベアトリスさん、本当にプリンやコーヒー代も払わなくていいのですか?」


 コーヒーはお客さん用のものだったとしても、スイーツのほうは我々の要求を聞いてもらった結果の産物。アレンジメントの代わりと言って差し支えないはず。


 たしかにここは花屋だけれども。結果的に解決に至ったのであれば、それはしっかりと仕事をしたということに繋がるべき。というのが見解になっている。


 だが頑なにベアトリスはそれを拒む。弟ともうひとりのアルバイトのぶんであるし、それになによりこの国では。


「いらん。フランスでは飲食を出せる店舗というものは決まっていてな。ここはそれを満たしていない。お金を取った、など知れ渡ったら閉店もあり得るからな」


 フランスにおいて、その物件に付随する『営業権』というものがあり、これを購入した場合のみ飲食店が開業できる。この営業権に商標やアルコール販売許可などが含まれており、花屋は当然これに含まれない。その建物で営業できる業種、というものが決まっているのだ。


 知れ渡る。つまりはそれは我々が言いふらすこと。ここまで至れり尽くせりで、そんなことをユリアーネはするつもりは微塵もない。


「言いませんけど……そう、ですか。ではお言葉に甘えて」


 なら気が変わらないうちに。二色の花を手に、お礼をする。今日。帰ってから。そのことを考えて。やっぱり頬が緩む。


 よし、一件落着。みんなメリットのある貿易はこれで終了。ということでリディアは帰宅を提案。の前に。


「あ、ちょっとベアトリスと話したいからさ。先に外に行っててもらっていい?」


 自分より小さな、不機嫌に見える店主の肩を抱く。仲良しをアピールしつつ。


「? かまいませんが……」


 不思議に思いつつも、なんだか意見できる立場ではないような気がしてユリアーネは渋々了承。先にひとりで? なんだろう、と腑に落ちない点はあるが、まぁ仕方ない。最後に挨拶をし、そのままドアの向こうへ。


 不敵な笑みを浮かべたリディアは「ちょっと待っててね」と手を振る。数分、もいらない。すぐ。終わるから。


 この先の展開がベアトリスには予想できる。ゆえに。


「……」


 無言で見送る。

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