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231話

 というのも花びらなども不自然。色も不自然。でも花としか言いようのないフォルム。それがヘアアクセサリーとして置かれていた。


 切り替えるベアトリス。バラの形をしたそれを手に取り、性質などを伝える。


「それはディップアートといってな。別名アメリカンフラワーとも呼ばれるものだ。ワイヤーで形作りディップ液という特殊な液体に浸ける。フラワーといっているが、実際の花びらなどは当然使っていない」


 これも造花。先ほどのものはポリエステル製だが、これは合成樹脂と針金でできたもの。もう固まっているので少々手荒に扱っても形は崩れない。


「なんでも考えるもんだね、人間ってやつは」


 ただただ『花』といっても、いくらでも応用を利かせて終わりがない。ただ地面から生えてきたものを切って飾る、だけでは到底。人類の凄さをリディアは再認識。


 まじまじと凝視するユリアーネだが、その美しさにため息が出る。


「ガラスみたいですね。繊細で、綺麗な……」


 フラワーとつくものはとりあえずベアトリスはやってみる性格。自分も案外気に入っていた代物。好奇心をくすぐられたらとりあえずやる。


「もし汚れても水洗いができる。ヘアピンとして日常生活でも使えるからな」


 売り物ではない。とユリアーネもわかっているのだが。喉を鳴らしてひと呼吸。そして。


「……私もひとつ、よろしいでしょうか」


 欲が出てきた。自分も、つけてほしい人がいる。


 ふーん、と悪い顔でリディアはその様子を見つめる。


「ユリアーネも贈りたい人がいるの? アニエルカ?」


「……まぁ」


 バレバレ。それもそうか。抵抗することなくユリアーネは認めた。否定する理由も。ないし。


 ここで悩ましいのは、売る側のベアトリス。このままズルズルと売り物ではないものを売るとなればそれは〈ソノラ〉ではなくなってしまう。弟にも言い続けていること。


「ウチの店の経営理念から反しているのだがな。だが、ひとつ売ってしまえば断るのも難しい。どういう相手だ? 場合によっては売ってやる」


 やんわり認める。今後はもっと厳しく判断基準を作ろう。


 なんだか無理やり許可をもらったようで。ユリアーネとしては心苦しい。


「すみません……私の大事な友人です。とても」


 とだけ。ずっと笑顔でいてほしい。大事な。


 こうなると勝手に仕切ろうとするのはリディア。そのあたりも目星はつけていた。案を出していく。


「これなんかいいんじゃない? 可愛いし。ヘアピンとしても使えるコサージュ」


 選んだものは、オレンジ色の鐘のような形のもの。下向きにぷっくりと丸く膨らんだ花が三つ連なっている。

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