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229話

 ベルリンで、ユリアーネは花見を楽しんだ記憶がスッと蘇ってくる。暖かな日差しと。美しい風景。


「たしかに、素敵な思い出ですね。どこかで今も桜が咲いている、と考えると、なんだかポカポカしてきます」


 思い起こすだけで心まで温まる。冷えたゼリーとプリンなのに。ひと口ごとに次々と季節が進む。散ってしまったあとも、それはそれで風情があって。この味を忘れないように、しっかりと身体に浸透させる。


 お行儀悪くスプーンを咥えたままのリディアは、飄々としたベアトリスの表情を覗き込む。


「でもそれだけじゃない、でしょう? アーコレードの意味は『賞賛』。そういうことだね」


 深いところまで読み切った。なるほどなるほど。盲点を突かれたようで気持ちいい。


 その鋭い観察力に内心驚きつつも、話が滞りなく進んでいくのはベアトリスとしても悪い気はしない。ただでさえ、ここで働いているアルバイトはひとつひとつ丁寧に、何度も戻りながらじっくりと手解きしないといけない。いや、それが上司の仕事だけれども。


「それもあるがたまたまだな。手に入った桜はこれだけだったし、たまたまこれを作っていた。そこに二人が来た。色々と運が良い」


 偶然に偶然が重なり、ミルフィーユのようになったことで今がある。その奇跡のような確率はいかほどだろうか。計算は苦手なのでしない。


 置いてけぼりを感じつつも、味わいながらユリアーネが思うのは。静かな夜はマイナスなことまで考えてしまう。そんな時にこの花、そしてお茶菓子を思い出してみる。薄いピンク色の情景と味と香り、自分を褒めてあげること。ほんの少しだけ、前向きになれる気がした。


「本当に美味しかったです。桜のプリン、私の店でもメニューに一考させていただきます」


 最後まで食べ切り、スプーンをタンブラーに入れる。体内は春の息吹を感じた。そして念の為、ベルリンに帰ったあとのことを断っておく。ドイツでも桜が咲く場所はたくさんある。これから見つけるたびに、この味を思い出すのだろう。


 別にベアトリスは作ったわけでもなければ、最初にこれを考え出したわけでもなく。食べ終わるとエスプレッソに口をつける。


「別に私達が発明したものではない。好きにやるといい」


 そもそも特許とかあるのだろうか。いや、様々なメーカーが販売していた気がするから大丈夫か。春になれば期間限定でデパートにでも数種類並ぶだろう。風物詩。

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