225話
しかし手間が省けた、とばかりにベアトリスはあっさり承諾。
「そうか。なら頼む。豆は解凍したものがこれだ」
そろそろ飲みたくなるだろう、と一時間ほど前に解凍を始めたもの。これまたフランスのガラスメーカー、ダルトンのタッパーを手渡す。中にはエスプレッソ用のコーヒー豆が入っている。
受け取って蓋を開けるユリアーネ。コーヒーの香り。落ち着く。
「ありがとうございます。お借りします。ミルクはどうされますか?」
カフェラテにするかどうか。自分はブラックで。もしやるのであればラテアートもしてみよう。せめてものお返しに。
「私はいい。そっちは」
と断ってベアトリスは視線をリディアに向ける。
「私も。ブラックで。ユリアーネのコーヒー。これも楽しみだ」
全員そのまま。コーヒーは味覚や嗅覚をリセットする特徴もある。ゼリーもプリンも。コーヒーも。完全な状態で味わってみたい。ユリアーネも「わかりました」と早速、奥のエスプレッソマシンで取り掛かる。
待っている間。無視して食べてしまうのも気が引けるので、色々とここまでで気になったことをリディアは質問してみる。まずは。
「コーヒー豆って冷凍したほうがいいの? 好きだけどそこまで考えたことなかったね」
全て常温で行っていたこと。ユリアーネに聞けばいいと思うが、この人の考えを聞いてみたい。
今までに試した結果、これが個人的にいいという結論にベアトリスは達していた。エスプレッソマシンの下。収納部にある冷凍庫でとりあえずエスプレッソは凍らせている。
「好みによるがな。すぐに使い切るのであればあまり関係ないと思うが、保存には最適だ。ウチは使うぶんだけ解凍して使っている」
しかし冷凍のままエスプレッソを作ると温度が低くなってしまい、なんとも中途半端な味になってしまった。お客にも出すもの。ということで、自分の納得のいく味が今まさにこれ。
そこまでか、とその挑戦し続ける心にリディアは敬服する。
「へぇ、花屋なのにコーヒーにまでこだわるんだね。なんでこの仕事を始めたの?」
質問二個目。特殊な花屋。欲しいって言われた花を包むだけのほうが楽なのに。他との差別化? それが楽しかったから? などなど聞きたいことは山盛り。だが。




