221話
今の時間、予約は入っていない。花と戯れようか、と女性は考えていた程度。問題はない。
「大丈夫だ。どうぞ。だがここでは——」
「花は選べないんだよね? だから来たんだ。よろしく」
注意喚起される前にリディアが重ねる。そしてそのまま店内のアレンジメントを物色。色々と目移りするほどに眩い花達。
一筋縄ではいかなそう。そう内心では毒づきつつも女性は店内中央のテーブル席へ。イスをひとつ追加し、そちらへ促す。
「話を聞こうか」
女性の名前はベアトリス・ブーケ。小柄なユリアーネ。よりも小柄なリディア。よりもさらに小柄。だが言葉の端々から自信が溢れる。そんな人物。
座って早々、頬杖を突いてリディアは切り出す。
「まぁ端的に言うとね。なにか特別困ったことがあるわけじゃないんだ。でもさ、順風満帆な生活してたとしても、ふとした瞬間に寂しさみたいなものを感じることがあるだろう? そんな時の彼女に効きそうなアレンジメント」
「え、私、ですか?」
急に話がきたので。いや、たしかに昨夜そんなことを言っていたけど。本当だったのか。驚いたユリアーネはイスの背もたれに寄りかかる形に。
おいおい、とリディアは視線をそちらに移す。
「今日の主役はユリアーネだからね。そうなるよ。ちなみにベアトリス、我々この制服を着てるけどベルリンから来たんだ。サービスしてくれる?」
ついでに要求が増える。言うだけはタダ。やれたらラッキー。色々と大きくふっかけておいて、小さな妥協案を認めさせる。詐欺師と同じ手口。
予約もなしに来た二人組が結構な無茶ぶりをしてくる。という状況だがベアトリスが揺れることはない。なんせ推理までさせられることもあるのだから。
「また随分と漠然とした要求だな。留学か。そういえばそんなものもあったな」
遠い目。なんだか哀愁が漂う。
「あれ? 卒業生?」
同い年か、もしくはユリアーネくらいを想定していたリディア。飛び級という制度はあるが、そこまで飛んでいたかと驚嘆。
はぁ、とため息をついたベアトリス。そうこうしているうちにも、頭の中で構築していく。
「そんなことはどうでもいい。ふとした瞬間に元気が出る花だな」
そしてイスから立ち上がる。全て決まった。準備に移る。こういうものは直感。悩むよりは手を動かす。
「もう思いついたのですか?」
まだなにも詳しいことは話していないのに。よくわからないけどなんかすごい、それがユリアーネの所懐だった。もし自分だったら。その人に合うコーヒーなど選べるはずもない。圧倒的にピースが足りなすぎる。




