218話
もちろんなにが正しかったか、などは勘の鋭いリディアでもわかるわけがない。だが、その探究心はいつか身を結ぶと信じている。
「いいんじゃない? 結局はなにを食べるかより、誰と食べるかなんだから。ケーキで仲が拗れるようなら長続きしなかっただろうし、そんなやつは捨てちゃえば」
そりゃそうでしょう。そんな男は自分ならお断り。せいせいする。
「極端な気もしますが……まぁ、そうなりますかね……」
それにはユリアーネも賛同する。自分も、アニーとならなんでも美味しく感じる気がする。事実、紅茶もコーヒーも自分で淹れてひとりで飲むよりも全然。味は変わらないはずなのに。
ひとつ、リディアは息を吐く。思考することは好きだが、勝ち負けがはっきりしないことはどうもすっきりとしない。
「オーナーさんは大変そうだ。私にはなれそうにない。でもユリアーネの元でなら私も働いてみたいね。ニーチェも言っていた。『人は、意見やアイディアではなく人柄に賛同する』ってね。キミは美しい」
跪くと、ユリアーネの髪に触れてみる。サラッと流れるミルクティーのような淡い色。そのまま溺れそうなほどに魅力的。
当のユリアーネとしては反応に困る。少しはアニーと一緒にいることで免疫はついてきているが、それでも距離感が近いと戸惑うことはどうしてもある。
「……どうも」
とだけ返しておく。だがもしシシーに同じことをやられたら。もしアニーに同じことをやられたら。考えるとドキドキとしてしまうかもしれない。今は不思議としない。年下の少女、というのには強い? 強いってなに?
それにしても、お客さんにオススメのメニューを聞かれただけなのに、こんな話をしてしまうのはなぜなのだろう。接客業に慣れてきた今だから、一度見直さなければいけないことがあるのかもしれない。気を張るユリアーネ。ただの雑談のはずなのに。
頑張りすぎじゃない? そんな気遣いをしながらリディアはゆっくりと後退。また壁まで。元の位置。
「パリにはね。悩みを解決する花屋があるって聞いたことない?」
いくつかある、パリで行ってみたい店のひとつ。〈WXY〉と。この店と。まぁあとはいくつか。
普通は花屋には、買いたい花や贈りたいシチュエーションなどがあって、そのために買いに行く。愛の告白にバラ、お墓に菊。なにかしらの目的。
だがその花屋は、買いたい花をお客側が選べないらしい。話を聞き、フローリストが独断でアレンジメントを作る。全て店側に任せることになる。曖昧で抽象的な想いでもなんでもいい。それを形にする花屋。




