表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216/319

216話

「ということがありまして。結局なにが正しかったのか」


 今日一日の労働を振り返りながら、疑問に思ったことを明らかにしたユリアーネ。下のベッド。案外ここに座るのが落ち着く模様。


 対面の壁に寄りかかりながら、まるで自室かのように自然に振る舞うリディア。勝手に入ってくるのはご愛嬌。


「なるほど。それでユリアーネはなにを提供したの?」


 お互いにゆったりとした寝巻き同士。パジャマパーティーのような感覚。


 別にそこまで悩んでいたわけでもないのだが。ふと、会話のネタとしてユリアーネは選んだこの話題。心の壁はない。


「無難にレーリュッケンを。お店でも人気でしたし」


 おかげで休憩中にいただいた。お土産までくれた。あとでシシーさんに持って行ってもらおう。


 ちなみにレーリュッケンは『鹿の背中』を意味するドイツのショコラーデを使った、パウンドケーキのような形をしたもの。中にはアーモンドの生地が使われており、二層になっている。フランスで一般的かは知らない。


「まぁ。そうなんだろうけどねぇ」


 名前を出されたらリディアも食べたくなってきた。背中に乗るアーモンドスライス。非常に好き。たぶんこの部屋のどこかにあるのだろう。シシーのぶんも含めて。先に食べてしまおうか。


 なにかその言い方に不満を覚えたユリアーネ。また見透かされている気が。


「……なにか?」


「いや、アニエルカならどう考えるかってさ。流石にそこまでは私もわからない」


 他人に無意識に寄り添うことができる彼女なら。どんなスイーツを選んで、どんな紅茶を淹れてくれたのだろうか、ということにリディアも興味はある。きっとギャンブルに強いんだろうな、というその力。やらなそうだけど。


 アニー。その名前が出た瞬間、彼女の笑顔が脳内に浮かび上がる。少し。今のユリアーネには。


「それは……一瞬考えましたが、やめておきました。それよりかは店長さんに聞いたほうがいいかと思って」


 苦しい時もある。なんだか、夜になると。一日の終わりが近づくと。働いている時など、一緒にいるならば問題ないのに。


 うん? とリディアは身を乗り出す。


「どうして? アニエルカに手伝ってもらったほうが早かったんじゃない? 


 こういう時こそ発動する能力。パリに来て初。〈ヴァルト〉とは違ってメニューにないからラッキーなことだろう。


 答えるユリアーネの歯切れは悪い。本心以外にも色々と余計なものが混じっているから。


「……休憩中でしたし、なんとなく、ものすごく真面目な感じな方だったというか、すぐに答えを出してしまってはいけないような……」


 自分にできることはなんだろう。そう考えた時にできることは『悩んでもらうこと』だった。いや、ケーキも間違いではないんだけれども。美味しかったと言ってくれたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ