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213話

 やっぱり、と予想通りの反応にユリアーネは苦笑する。非常にわかりやすい。


「コーヒーといえばヨーロッパやアメリカ、という認識がありますが、アジアは面白いコーヒーが多いんですよ。インドネシアではダッチコーヒー、つまり水出しコーヒーが古くから飲まれていたり、今じゃ当たり前となったアイスコーヒーは日本が発祥とも言われています」


 ダッチとはオランダを意味する言葉。一七世紀にオランダで誕生した世界初の株式会社『東インド会社』は、当時領地としていたインドネシアにも進出。しかしこの国で使われていたコーヒー豆はロブスタ種。西洋人には中々受け入れられない味だった。


 そこでベトナムと同じく、その土地で適応するように進化したのがダッチコーヒー。沸騰したお湯で作ったものを一度冷やすより、最初から水で作ってしまえばヨーロッパとは違う味わいだが、現地で飲むには最適となったわけである。


「どれも今ではドイツで飲めると思いますけど、やっぱりユリアーネさんは現地で飲んでみたいとかあるんですか?」


 コーヒーについて語る様子がとても楽しそう。アニーは見た目でもわかる。自分もこんな感じなのかな。


 いい質問ですね、とでも言うかのようにユリアーネはさらに饒舌になる。


「もちろんです。味だけでなく、歴史とか、それを作り出す方々とか。そういうのも含めてコーヒーが好きなわけですから。いつかオリジナルの豆もお店で販売したいと思っています」


 ドリップ用、エスプレッソ用、はたまたゼリーやスイーツに使う用など。自分が農園まで足を運び、契約したり。時間も手間暇もかかるし、成功が約束されているわけでもないけど。焙煎もやりたい。今は夢を見ていい。


 そうなるとライバルがより強力になるわけだが、そんなことはお構いなしなアニーもつられて嬉しくなる。


「いいっスね! その時は紅茶専門店になってると思いますが、それくらいのスペースは空けておきます。ボクも茶葉の販売してみたいっスねぇ」


 インドやスリランカ。はたまた今までに全く注目されていなかったような国にもしかしたら。そんな宝探し。きっと死ぬ時にも「あぁ、楽しかったな」と思って息絶えるのだろう。というところまで見据えるのに〇・五秒。


 そのまま語らう二人。お互いにオススメする紅茶とコーヒーを淹れてみたり、半分ずつ分け合ったり。パリに来てもやること、考えることは変わらないことを再認識。ふと、一緒にダブルベッドの下に腰掛け、窓の外を見やる。


「……いつか、行ってみましょうね」


 その時お店がどうなっているかわからないけど。いや、たぶんコーヒーがメインだと思うけど。そのユリアーネの目指す先。だんだんと空が明るくなってくる。


 しみじみとその横顔を見つめていると、湧き上がるものがアニーにはある。爆発しそうになるのをゆっくりと静め、溜め込んだものを凝縮して返事。


「……はいっス!」


 なお、学校は遅刻した。

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