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211話

「そしてグラスに練乳を入れ、その上にソーサーとカップを置き、お湯を注いで蓋をする。これであとは待つだけです」


 使った耐熱グラスは透明。ポタポタとコーヒーが少しずつ染みのように垂れていく。穴が小さいため、通常よりも時間がかかるのだが、それもまたベトナムコーヒーのいいところ。抽出には一杯につき六分以上かかることも。


 グラスの高さに目線を持っていき、その様を凝視するアニーは、まるで砂時計のようだと楽しさが生まれてくる。


「ほぇー、なんか不思議っスね。練乳の上にコーヒーが落ちていくっていうのが」


 抽出が終わってから練乳を混ぜる、よりも視覚的に好きだと思う。


 そうこうしているうちに抽出も終盤。下に溜まった練乳。上に積み重なった透明度の高いコーヒーの二層式。液体の比重の違いによりこうなる。


 カップなどを取り外し、ユリアーネはグラスの中をスプーンでかき混ぜる。


「最終的には混ぜるので、後でも先でも問題ないんですけどね。私はプースカフェスタイルのように、層になるのを見るのが好きなんです」


 混ぜないで飲むと、最終的に激甘な練乳のみになるので気をつけたい。


 ちなみにミルクに練乳もしくはガムシロップを混ぜ、そこに冷やしたコーヒーを注いで二層にしたオレグラッセという、二層式カフェオレも存在する。ミルクとコーヒーの順番を逆にすると、その色合いは反転。これは混ぜないで飲むドリンク。


 そしてそこにアニーから素朴な疑問。いつもと違うコーヒーの淹れ方、ということは気になる点が多数。


「でもこれだと、紙のフィルターを使ってないですから、穴の部分から粉が落ちていっちゃうんじゃないっスか?」


 防ぐものがなにもない。グラスの底のほうにザラザラとしたものが残ってしまう。いいのだろうか。


 ユリアーネは、むしろそれこそが最後の隠し味とさえ思っている。


「それもベトナムコーヒーの良さです。他では味わえないですから。全てを前向きに捉える、という意味では最もポジティブなコーヒーと言えるかもしれません」


 気持ちも晴れやかに。それも付随してくるのはとてもいいこと。


 ベトナムコーヒーは、中国語で『滴滴珈琲』と書くほど、抽出に時間のかかる淹れ方。内蓋により圧縮された粉は、極端に密度が高まり、お湯の通る隙間が少ない。それゆえに濃い目のコーヒーが出来上がる。濃くて苦いコーヒーにより、独特の風味を逆に消していく。


 深煎りに焙煎された豆は雑味をなくし、そこに糖度の高い練乳を投入することで甘くする。ちなみにベトナムだと『カフェ・スア』、氷を入れてアイスにすると『カフェ・スア・ダー』となる。ダーとはロックアイスを示す。

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