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208話

 一旦は勉強や留学などどこ吹く風として、申し訳なさを覚えるユリアーネは、自分にとっての本題、気にしていたことに決着をつけるべく切り出す。


「それでこの前はシシーさんとはどんなお話を」


 なんとなく胸からお腹にかけてキュッと引き締まる。何気ない会話のはずなのに。唇は噛みそうになってやめた。もっと早く聞くチャンスはあった。だが、なんとなく尻込みして今になる。


 眉を上げるアニー。なんだか思い詰めてるような気がして。


「シシーさんスか? もうひとりいたんですけど、その方に合う紅茶を選別しました。あとで持っていくことになってます」


 えへん、と力になれていることを誇らしく思う。それに紅茶の仲間が増えるのはいいこと。


 聞いていた通りで、肩の力が四割ほど抜けた。ひと安心のユリアーネは、胸を撫で下ろす。


「そう、でしたか。よかった……」


「よかった?」


 さっきからなんだろう? そう首を傾げながらアニーは問う。不思議。もちろんグランゼコールなどは一切知らない、今回は遊びに来てると信じて憚らない。


 キリッと頭のスイッチを入れ直し、いつも通りにユリアーネは振る舞う。いつも通り。ベルリンにいた時のように。〈ヴァルト〉にいる時のように。


「いえ、こちらの話です。ちなみにどのような方だったのですか?」


 不自然? 笑んでからちょっとだけ後悔。


 アニーは思い返してみるが、こちらは自然と口元が綻ぶ。


「よくわからないっスけど……その方もボクに似た方だったみたいっス。音を香りで捉えられるとか」


 逆だったっスかね? と曖昧な部分もあるが。とはいえ、近い存在に会えて嬉しい、とかいうものは特になく「まぁ、そういう人もいっぱいいますよね」程度。自分自身の凄さをよくわかっていないのだから、仕方ないといえば仕方ないが。


 普通であれば、そんなバカなとユリアーネも疑いたくもなるが、事実目の前にすでにそういう人物がいるわけで。


「……アニーさん以外にそんな方がいたんですね。世界は広いのか、それとも狭いのか……」


 二人目ともなると驚きは控えめ。むしろどこかにそんな人もいるのではないか、などと若干考えていたこともあり、やっぱりかという安心に近い感情。まさか今回接触できるとは思ってもいなかったが。


「音を香水で表現できるらしいっス。ボクはあまりクラシックとか詳しくないのでアレですけど、不思議な人もいるもんですね」


 いや、どの口が言うか、とユリアーネはツッコみたくなるのを抑えつつ、ひとまずは色々と心配していたようなことはなかったようで安心。やはり九二パーセントは偉大。口癖になりそう。


「どちらのほうが感覚が鋭いか、とか比較してみたくなりますね。競い方はわかりませんが」


 そんなことを口走ってみる。少しフワフワと気持ちが浮いているかもしれない。だが、こんな他愛のない時間が好き。

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