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207話

 そんなことは露知らず、きっぱりとユリアーネは否定。


「やりません。今回は普通に普通のアルバイトです」


 しかし言われてみればたしかに、とユリアーネは納得してしまう。ショコラトリーで緊張はしていたものの、同時に落ち着きはあった。働けるか、ダメもとではあったがそれこそやはり、九二パーセントは取り越し苦労なのだろう。そして紅茶が美味しい。


 フランスで働く場合、実はアルバイトというものは存在しない。全て正規雇用となり、無期限か期限付きかというものになる。が、今回は期間も短いため、正式な雇用とはならない。賃金は別の形でもらうことに。


 顎に手を当てて物思いに耽るアニー。働けることは嬉しいが、当然不安も。


「ショコラトリーっスかー……やったことないっスねぇ、流石に。でもま、ドイツのほうがショコラーデの消費量は多いので」


 クルト・シェーネマンとの共同開発もあることだし。よくわからない理由で前向きに捉える。紅茶も好きだがショコラーデももちろん好き。


 意外にも思えるが、ドイツのショコラーデのひとりあたりの消費量は世界でもトップクラス。スイスやイギリスなどと常に争っており、フランスは一〇位にも入らないほど。とはいえ、流行の発信地はパリと言っていいわけだが。


「私もわからないことだらけではありますが、基本的なことは変わらないはずです。ドリンクを聞いて、料理を提供して、お会計をする。それだけです」


 絶対に目の前の少女はそれだけでは終わらないと思うが、一応ということで取り決めをユリアーネは確認する。メニューに紅茶はあった。ならなにも起きないはずがない。すでにある程度、よくない方向へ流れていってしまった時のことを想定しておく。


 そしてそれを嗅ぎ分けたアニーは、頬を膨らませて抵抗。


「あー、たぶんボクがなにかやらかすと思ってますね。大丈夫っスよー、せっかくユリアーネさんが取ってきてくれた仕事なんですから。それに数日間っスよ? なにか起こすほうが難しいっス」


 自信満々に宣言するわけだが。


 だからこそユリアーネは心配なわけで。


「……期待しています。いや、期待しない、のほうが正しいのでしょうか……」


 よくわからなくなってきた。やはり自分だけにしておいたほうがよかったか。でもやはり、アニーと働けることは楽しいし、店側も人手は欲しいって言ってたし。少しだけ〈WXY〉のせいにしておく。


「楽しみっスねー、ヘルプだったとしても、色んな環境に身を置けるのは楽しいっス」


 今回の留学も含め、全てがアニーには新鮮に映る。刺激が多いほうが生きている、という感覚に浸れる。

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