205話
いつもだったらここにもうひとり、トラブルメーカーが乱入してくることを思うとダーシャは動悸を覚えつつも、寂しさもなきにしもあらず。
「でも弱音を吐いてると、アニーちゃんが『やっぱりボクがいないとダメな人達っスねぇ』とか言ってきそう」
若干、透けた色合いでこの場にアニーがいることを想像できてしまう。無音のはずだが声も。幻聴なのにやたらくっきりはっきり。
言われてみれば。そこにいないのにいるように見えてしまうカッチャ。犬のように擦り寄ってくるあいつ。
「めっちゃ思い浮かぶ。ムカつくからケーキでもドカ食いしようかしら」
そんな時はリフレッシュするに限る。休憩まで時間はあるが、先にもらおう。なんだか落ち着かない。もしかして自分もアニーがいないとそれはそれで? いやいや、ユリアーネを愛でるのが生き甲斐で……なんかもうよくわからん。
「そんな時はこれ、サガフォルムは『自分へのご褒美』がコンセプトですから、このケーキドームなんかオススメでございます」
どこから出したか、オリバーの手には天然オーク材を使った台座と、手吹きガラスのドーム。ケーキを入れるストッカーだが、見た目にも美しいインテリア。中にはシュヴァルツヴェルダーキルシュトルテ。さくらんぼ酒のショコラーデケーキ。色の対比がさらに映える。
得意げに渡されたカッチャは、渋い顔のまま感謝の言葉。
「……そいつぁーどうも」
「いえいえ」
それだけ残してオリバーは立ち去る。まだ料理の途中。こんなことをしている場合ではない。ただ、フィンランドの熱風を感じて。
全身の二酸化炭素を吐き出したカッチャの気持ちに寄り添いつつ、ダーシャは前述の答え合わせ。
「ね? 僕なんか浅いでしょ?」
なぜか誇らしげ。よかった、自分は色々とまだ間に合いそう。そんな安心感が胸中に渦巻く。




