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202話

 やっぱり。なにかこの人物とは波長が合うかも。ここには行こうとしていた。だがさらに深い部分があるとのこと。そう考えると高なるユリアーネの心臓。


「特殊……具体的にはどのような——」


「知りたい?」


 悪戯に話を先延ばしにしようとするリディア。だがそれは友人として、軽く戯れるような。そんな朗らかな雰囲気を添えて。


「……実際に行ってみます」


 それを察知し、それならばとユリアーネも深く追及しない。初見の味、感覚というものも大事にしたい。やはり前情報は無しの方向で。とはいえその店のことは少し調べてしまっているのだけれど。


 だが、そう言われると天邪鬼にリディアは応えてしまいたくなる。


「一般販売はしていないそうなんだけどね。『音楽』、それも映画の主題歌や挿入歌をモチーフにしたショコラーデを作っているそう。気になるよねぇ」


 うんうん、とひとり楽しそうに。あえて逆を突いてその反応を楽しむ。


 ジトっとした目つきで訝しむユリアーネだが、聞いてしまったものは仕方ない。期待を膨らませるほうにチェンジ。


「でも一般販売していないのであれば、拝見するのも難しそうですね。気にはなりますが、無理やり見るわけには——」


「なら働いちゃえばいい。常に人手は足りていないみたいだからね。キッチンはともかく、ホール担当であれば慣れたもんでしょ?」


 またも遮るようにリディアは言葉を重ねる。まるでどう話が進んでいくのか予見できているかのように、ポンポンと展開が目まぐるしく移り変わる。


 その手が通じればもちろん最高なわけだが。そしてその手でいくわけだが。一応、ユリアーネも後ろ向きなことを考えないわけはない。


「私は……まだそれほど経験が長いというわけでは。それに、私達は一週間しかいれないわけです」


 フランスの学生アルバイトは色々と制約が厳しいこと。ショコラトリーは基本的に学生を取りづらいということ。不安要素はあげればキリがない。


 しかしそれらを払拭するように、リディアは立ち上がってそのままユリアーネの唇に触れる。


「『心配事の九二パーセントは実際には起こらない』。逆に言えば、ユリアーネが言うことが起きる確率は八パーセントだ。分のいい賭けだと思わない?」


 間違いなく自分なら全額ベット。欠伸が出そうなギャンブルだけど。


 年下にされるとは、というか、そうでなくてもされることになれていないような行為。ビクッとユリアーネの体が跳ねる。


「……誰かの言葉ですか?」


 冷静に冷静に。同じ高さの目線。負けないように。逸らさない。

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