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200話

 一度、引いた目線でリディアはユリアーネを捉えた。分析。完了。


「なんとなく読めたね。ユリアーネは留学とかより、パリのカフェ文化を学びにきたんだね。たしかに。ベルリンもカフェに始まりカフェに終わる、って感じだけど、パリはまた少々趣が違う気がする。でもそれでいいの?」


 心が勉強や留学より、カフェとアニエルカ・スピラに寄っている。ということは今回の留学、残念ながら『誰ひとりとして勉強のために来ていない』ということ。やれやれ、費用を捻出してくれている学院側に申し訳ない。


 ケーニギンクローネにとって、フランスへ留学を推奨する理由がある。それは『グランゼコール』の存在。高度なフランス語が使えることを前提とした、外国人枠もある狭き門。大統領などが卒業する高等師範学校。


 フランスでは、高校を修了すると『バカロレア』という試験により、合格すると卒業証明書のようなものを授与される。それがあれば人数制限などはあるものの、どの大学でも入ることができる。九割近くが合格する年もあるほどで、難しいものではない。


 大学は入ることはできるが、進級や卒業が難しい。大学は基本的に五年制だが、二年にすらなれない者も数多くいる。そしてその大学とは別の、いわゆる政治や行政の中心となる人物を育てるエリート街道。それが『グランゼコール』。


 その難しさはバカロレアや大学などとは比べ物にならないほどで、まずバカロレア取得後に二年から三年、休みもなく朝から晩までの勉強と競争の準備期間、通称『プレパ』を経て、それでも上位の中のさらに上位が受かるかどうか、というもの。太陽に当たらず、勉強漬けの日々を送る彼らを『モグラ』と呼ぶ人達も。


 そしてその勉強も丸暗記ではなく、柔軟性を求められる解答が求められる。『平等』とは。『原因』とは。『説明』とは。『科学』とは。そういった、物事の本質を六時間使って論じる力。それこそが次世代を担う存在になる。超学歴社会のフランスの頂点。もちろん、入学してからも困難を極めるのだが。


「普通は外国人枠だとプレパすら難しいし、理系の最高峰とも言われる『エコール・ポリテクニック』に挑むクラスにすら入れない。だけど、シシー・リーフェンシュタールならそれも可能、とケーニギンクローネは判断したんだろうね。だからこんなわけのわからない時期に留学なんて」


 なんとしてでも彼女をフランスへ、という学院の思惑。そのために彼女にフランスを触れさせて、気持ちを操作する。口には出さないがリディアには馬鹿馬鹿しくて涙が出そう。でもそのおかげである程度の自由がきく旅行になったけど。

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