20話
将来のプランも表明されては、勢いでダーシャは負ける。そして、言い返す弾丸もない。むしろ、早い段階から世界を見据えているというのは、賞賛すべきことですらある。今どきのこのくらいの年代は、遊ぶことや恋愛などに興じているだろう。僕もそうだった。それはそれでいいことだ。しかし、目的と目標を明快にし、未来の予想図を持った少女に、四〇の男が言えることなどなにもなかった。
「……いや、まだ三八だって……」
と、だれかにツッコむ。
「もうよろしいですか? それではまた追って連絡します」
今度こそユリアーネは退室していった。コツコツというヒールが地面を叩く音が反響し、強い意志と共に感じられる。彼女にとって、この早い段階でお店をプロデュースできるというのは僥倖でありチャンス。それが人から奪う形であっても、弱肉強食の世界に身を投じた感触を肌で味わえる。やることはたくさんありすぎる。
そして残された四〇の男。意味もなく室内を歩き回る。そして吠える。
「……マジか。あー、マジかーッ!」
ユリアーネとの会話を一から思い出し、もう一度だけ反芻する。しかし結論は変わらず、お店は彼女のもの。自分自身には、なにかマイナスがあるかというと金銭面のみ。ある程度安泰だと思っていたこの仕事、まさかこんな形で変革を迎えるとは思ってもみなかった。
「……どうするかー、言いたいことは全部当てはまってるんだけど!」
そこが問題。なにも言い返せない。じっくりと考えてみれば、たしかにこの店はおかしい。オーナー筆頭にスタッフのクセの強さ。勤務態度。普通に考えてアウトだろう。しかし、それでも心地よかったのは事実。このまま手放したくはない。が、どうすれば。
「……彼女にかけるしかないかー……」
小さくこぼし、九割がたは諦めた。
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