197話
コンコン、というノックから間を置かず、部屋に入ってくる人影。モンフェルナの制服。鍵がかかっていなかったのはただの締め忘れ。
「やぁ」
「……リディア……リュディガー、さん」
まだ許可を得ていないのに入り込むその人物。怪訝そうにユリアーネは壁際のテーブルセットに腰掛けながら出迎えた。勝手に入られたわけなので、出迎えたというのは少し違うが。
モンフェルナ学園寮。シンプルな三五平米ほどの空間。足元はルームシューズに履き替えている。フランスには置いてないらしいとのことで、ドイツから持ってきた。入り口で履き替えるようにしている。
途中まで入りかかって、一応は靴を脱いだリディア。アニー用のルームシューズをこちらも勝手に拝借。玄関、というものはないので適当に靴は脱ぎ散らかす。
「そんなにかしこまらなくていいんじゃない? ほら、我々は同じ留学生なんだから、今は」
今だけは。本当は違うけど。
同じ学院の出身、ということだが、見たことも聞いたこともない人物に対して、深呼吸をしてユリアーネは対応する。まだ心の距離は遠い。
「それで、なにかご用ですか?」
言ってから、冷たい言い方だったか、と若干反省。学年はたぶん自分が上。ならば上級生として、余裕のある振る舞いをするべき。かも。
リディア・リュディガー。あのシシー・リーフェンシュタールが留学の決まり事を捻じ曲げてでも連れてきた人物。どういう繋がりなのか。どういう人物なのか。どういう理由によるものなのか。わからないでいる。少し中性的な少女、というのがユリアーネの見解。
そんな疑いの視線を感じ取ったリディアは、まるで「敵意はないよ」とでも言うかのように両手を広げてアピール。
「いやなに、シシーに部屋を追い出されちゃってね。行くところもないし。ないこともないんだけど、まだあまり話もできていないようだから、これを機にね」
本当といえば本当。仲良くなるに越したことはないでしょう。
事実、行きの列車の中でもリディアは眠っていたため、ほとんど話せなかった。会ったのも出発の日が最初。その後も色々あって別行動。そして今に至る。
親睦を深めなきゃ。それでもまだユリアーネの重心は後ろがかっている。
「……では、あなたはシシーさんとどういうご関係なんでしょうか?」
直球で。まわりくどくする必要もない。本質を探ってみる。
眉を下げながらリディアはその心を読んだ。
「いきなりだね。まぁ、成績なども吹っ飛ばしてこの留学に選ばれてるわけだから、そりゃ気になるか。いや、ユリアーネが気になってるのは……シシーとアニエルカのことかな? ついでに私を通して探ろうというわけ」
口調。間。目線。そういったものから、そんな気配を悟った。これくらい単純だと可愛いね。




