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194話

 そして現在。パリの四区。カフェ。


 憧れ、という感情を目の前の少女が持ち合わせているのかはユリアーネにはわからないが、ひとつとりあえず結論づけてみることに。


「まぁ、あのシシーさんのことですから。アニーさんの能力に知的好奇心をくすぐられた、とかでしょう」


 少し話しただけだが、シシー・リーフェンシュタールという人物は、小悪魔的な悪戯心に溢れている。なので気になったことには首を突っ込まずにはいられない。意外な一面を見た気もするが、そういうところも人を惹きつける要因なのかも。


 モデルのようなスタイル。語学力などの知性。高いカリスマ性。安い言葉でしか賞賛の言葉が見つからないが、ひとつでも突き抜けていれば充分すぎるほどなはずのパラメーターが、どれも枠を超えて収まりきらないというか。画面や誌面越しに見る人物。


 その答えにしっくりきていないアニーではあるが、上手く話が纏まりそうなので、曖昧ながらもそれで肯定しておく。


「そんなとこ……なんスかねぇ……」


 心ここにあらず。というより、心だけベルリンの自室にまだ取り残されている。衝撃が唇に少し、感触としてまだ。


 こうしている間にも。ベルリンへの帰還が一秒ごとに迫ってきている。ということはユリアーネが導くことは決まっている。


「あの方の考えることは、私達には計ることなんてできませんから。やれることをやりましょう」


 ここに来てしまった、来れた以上は有意義なものを。これはチャンス。色々と。前向きにこれからの算段を頭に入れてある。


 まず、クルト・シェーネマンという人物とのコラボの件もあるため、ショコラトリーを何件かまわってみたい。一番の狙いは七区にあるという〈WXY〉というお店。カフェも兼任しており、フランスの職人章であるM.O.Fを取得した人物がオーナーを務めている。


 その他、七区にはマリー・アントワネットをモチーフとしたショコラーデで有名なお店もある。そこでアニーと写真を撮ったり。そういう観光もありでしょう。あとはまぁ、色々と。行き当たりばったりも、二割くらいあれば嬉しいハプニングとか。


 ダーシャからは「無理しないでね」と念を押されているが、そうも言っていられない。焦り、が少なからずユリアーネにはある。


 無理矢理にでも目の前の霧を払って。視界良好、とやりたいことをアニーは口にする。


「いいっスね、ボクも色々と勉強したいので、働かせてくれたりしないっスかねぇ」


 そうすればこのモヤモヤは自然と気化して空へ上がり、どこかで雨となって落ちてくるでしょう。そんな根拠のない、気象学に逆らったことに縋ってみる。

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