173話
そろそろ暗くなってきたこともあり、部屋の電気をつけて机の上にひとつずつアニーは置く。
「お待たせしました。熱いので気をつけてくださいね」
ソーサーに乗ったカップが二つに小皿が二つ。そしてスプーン。
壁に向かって食事を取るのも圧迫感がある気もするが、シシーは受け取り確認する。
「ありがとう。これは……ジャムと、ハチミツ?」
小皿にはそれぞれ、深い紫色と黄色のゼリーのようなもの。たぶん合っているだろうと思いつつも、窺ってみる。
当然のようにアニーは肯定する。
「はい、スウェーデンのブランド『トルフォークゴード』のクイーンジャム。それと、フィンランドのブランド『フナヤウフトゥマ』のハチミツです。ということはつまり——」
「……ロシアンティー、だったかな。ジャムやハチミツ、マーマレードなんかを口に含んでから紅茶を楽しむ」
有名な紅茶の飲み方なので、あまり飲まないシシーも名前だけは知っていた。飲むのは初めてだが。
詳しい説明をアニーが追加する。
「そうっス。ロシアの寒い地域では、非常食としてジャムを瓶詰めしている家庭が多い。そこで生み出されたロシアンティー。合いますよねぇ」
どうぞ、と勧める。熱いうちに。少しずつ自分の好みの味に仕上げつつ。むしろジャムを温めるため紅茶の中に入れる人も多く、飲み方は様々だ。
まずはクイーンジャムからシシーはスプーンに取る。深い紫ということは、おそらくベリー系だろう。少量口に含み紅茶で流すと、よりジャムの風味が強調される。
「美味しいね。この紅茶は?」
スッキリとしつつ、コクがある。甘さをより引き立てつつも、後味が爽やか。ビルベリーとラズベリーが上手く調和している。
「それはシシーさんが買ってきてくれた、ダージリンとセイロンのブレンドである、ロンネフェルトのクイーンズティーです。無意識に女王を選ぶってあたりが、気高さを表現してますね」
クイーンジャムとクイーンズティー。二人の女王の共演。アニーも興奮する。
謙遜しつつシシーはもうひと口楽しむ。
「適当に見繕ってもらったものだから、そんなものが入っていたなんて知らなかったよ。でもスッキリとしつつも、ジャムやハチミツに合うスモーキーさ。運がよかったみたいだ」
渋みも適度で飲みやすい。帰りにまた買おうか、と心に留める。
しかしアニーからすれば、それは必然となる。
「紅茶が人を選んだんス。相応しい人のところに集まるんです」
という自分理論。紅茶はいつでも正解になる。決められていたことだと主張。
「俺がクイーンだってこと?」
まさか、とシシーは苦笑する。自分はただの女であり、王の資格なんてない。




