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159話

 フランスの小説家、スタンダールは恋愛には四種類ある、と定義づけた。『情熱恋愛』『趣味恋愛』『肉体的恋愛』『虚栄恋愛』と。そして恋の七つの時間を経過し、相手の欠点すら見えなくなる、むしろそこがいいとさえ思えてくるという。





 電気を消した室内。ソファーに座りながら、ユリアーネはひと息つく。そのまま目を瞑れば眠ってしまいそうになりながら、深く深く思考の海に潜る。


「……」


 ここ最近の『ヴァルト』のこと。簡単に言ってしまえば順調そのもの。SNSも駆使し、なおかつ今をときめくショコラティエ、クルト・シェーネマン氏とのコラボ商品。まだ決まったばかりであるため、詳細なことは未定だが、新たな客層を取り込めるかもしれない。


「……」


 だが、オーナーを務めるユリアーネの顔は緊張で張り詰めている。もちろん夢のような話ではあるし、売り上げの向上にも、これほどありがたいことはない。だけど。


「私は……なにもできていません……」


 自身がオーナーになってから早一ヶ月。もちろん、そんなすぐに結果がついてくるほど甘くはないことはわかっている。そして、ある程度ノウハウや常連客がついている状態から始めた。強くてニューゲーム。色々な案は出してみている。


 だが、アニーのようにお客様に付加価値のあるものを、なにか提供できているのだろうか。リピートしたくなるようななにか。オーナーの仕事は店で働くことではない。しっかりと売り上げが出せるような仕組みを作り上げること。それならば。


「私にできること……」


 自分ひとりで作り上げることなどできないことはわかっている。でも。


「焦ります……」


 アニーに置いていかれる。そんな気配が。背中に。

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