149話
それはマクシミリアンも同様。かつて勝負の世界にいた頃にも感じた、ゾワっとする言葉に言い表せない感覚。まさか紅茶とクッキーで。
「うん、美味しいかというと微妙なんだけど、不味いわけでもない。わからなくて食べてしまう。不思議だわ」
ここでアニーからひとつ解説が入る。
「クルトさんのほうはサルミアクです。塩味のラクリスですね。好き嫌いの分かれる味ではありますが、クッキーにすると面白いかと思ってやってみましたが、上手くいってよかったっス」
いやぁ、やってみるもんスね、としみじみと感動。
最後の一枚を食べようとしていたクルトは、齧ろうとしたところでハタと止まる。
「……ということは、初めて作ったんですか?」
背中に冷や汗が流れたのがわかる。身震いも。珍しい組み合わせのお菓子だとは思ったが、まさかある程度の練習はしているものだと思っていた。
ケロっとアニーは肯定する。
「そうです。成功したんで。結果オーライってことで」
失敗していたら、まぁ、謝ればいいか、程度に考えていた。が、予想以上に好評で奇貨ということにしておこう。こういう博打は手に汗握って好きだ。
しかし、こうなるとクルトは噛み付く。実験と受け取られてもおかしくはないため、気が気じゃない。瞬きが多くなる。
「なにをもって成功とするんですか? 少なくとも、『美味しい』という言葉は引き出せていないと思いますが?」
それにはマクシミリアンも同意。肝心な部分が抜け落ちている。
「たしかに。面白かった。それは認めるけど、彼にとってどうプラスに働いたのか、聞きたいねぇ」
最後の仕上げ。紅茶とお菓子がはたしてどういう意味を持つのか。なぜこれらを選んだのか。
その答えを伝えようとしたアニーは、ポン、とウルスラの肩を叩く。
「それは……ウルスラさんから説明させてもらいます」
「……はい?」
そして背中を押されてウルスラは一歩前に出た。視線が集まる。足の先に緊張の波が来る。
背後からアニーが小さく呟く。
「ほら、あれっスよ、あれあれ」
「は、いや、あれ、え? 私? なに……が?」
まず、どこから事態を把握すればいいのか。ウルスラは狼狽し、なにについて今話しているのかもわからなくなった。
ポカン、としつつもクルトはとりあえず聞いてみることにした。
「……では、どういう意味でしょうか? ウルスラさん、ぜひ教えてください」
いや、絶対わかっていないだろうけども。なんでか前に出ているため、とりあえず礼儀として。いや、わかってないだろうけど。




