146話
運ばれてきたのを確認し、アニーがテーブルに置くようにお願いする。
「ウルスラさんありがとうございます、スクラルスィカレイヴァになります。マクシミリアンさんのはこっちです」
「おまたせしました、どうぞ」
カチャ、と小さく音を立てて二人の眼前に。見た目は一緒だけど、なんでアニーは皿を指定したのだろう、と訝しみつつ、ウルスラは一歩下がった。
料理、と言ってもクッキーのセットだが、胃に入る固形物が届き、マクシミリアンは上機嫌になる。
「ありがとう、やっとだねぇ」
夕食前に少し食べたい、という時にクッキーはちょうどいい。
だが、難しい顔のクルト。目を細めてクッキーを凝視する。
「……見た目は普通のクッキーですが、これがどう今の私に合うと……? それと、名前が……」
覚えられない。何語なんだ? と耳から離れていった単語を思い出すが、さっぱりわからない。製菓学校でも聞いたことはない。
もう一度、アニーがゆっくりと名前を口にする。
「スクラルスィカレイヴァ。フィンランドのスプーンクッキーになります。スクラがショコラーデ、ルスィカレイヴァがスプーンパン、まぁクッキーっスね」
向こうでは一般的なお菓子。簡単にできて、色々アレンジも楽しめる。
そして注目すべきは間に挟んであるもの。マクシミリアンが一枚つまんで、ひらひらと揺らす。
「しかもショコラーデ。あんたに対して、ねぇ?」
と、クルトに視線を投げる。どこか楽しそう。
「……?」
ショコラーデとクルト。なにか関係があるのだろうか。事態がよく飲み込めていないウルスラは、少しハラハラとしてきた。こんなにお客さんとまじまじと話し込みながら、料理の話をするなんて、果たして自分にできるのだろうか、と心配になる。
だが、それとは反対にアニーは堂々と声を張る。
「これは中々お店で出会うことはないショコラーデになります。本当はボクのオヤツとして作っておいたものなんですけど、特別っスよ」
今のところ、全くどんな味なのか予想はつかない。クルトは悩みながらも自身の前に置かれたクッキーをひとつ、手に取る。
「…… 気になりますね」
見た目はショコラーデのクリームを挟んだ普通のクッキー。だが、そうではないと言う。ここで数ある理論を振りかざしても答えは出ない。M.O.Fですら食べたことのないショコラーデのクッキー。参考にできるのかは謎だが、このワクワクする気持ち。カフェで感じることができるとは。
そして一秒ごとに不安が募っていくのはウルスラ。
「……本当に大丈夫、なの?」
いつもこんなことをしているのだろうか。アニーさんがいない時に、紅茶のセットを頼まれたらどうしよう。実際にはアニーがいる時限定のメニューなのだが、そんなことは知る由もない。




