141話
二五平米ほどのクローズドキッチンで、カフェにしてはそれなりに広いほうではないだろうか、と予想した。中央には調理台、壁側にはシンクや製氷機、冷蔵庫などがあり、よく映画などで見かけるレストランのキッチンを少し小さくした規模。
天井から吊り下がっているウォールシェルフには鍋などの器具がしまわれており、重めのディナーなどにも対応していることがよくわかる。アニーはトレンチにティーポットとカップ、ソーサーなどを乗っけているところだ。
忙しいかな、と遠慮しつつも、ひと声だけかけようとウルスラは歩を進める。
「アニーさん、私、今日から入った——」
「あ、じゃあ『それ』を持ってきてもらっていいッスか? よろしくです!」
握手をしながら屈託なく破顔するアニー。まだ他に持っていくものがあったので、声をかけられてよかった。トレンチには乗り切らなかったため、往復する必要があったから。
「え? これ?」
指定されたものがウルスラの視界に入る。小さな手のひらサイズのボウルに入った、カラフルな粒。なんだろう……これは? 見たことはない。食べるものなのか、それとも添えるだけなのか。紅茶と一緒に持っていく、ということは砂糖のように溶かして飲む?
「それっス。綺麗ですよね」
予想を立てているウルスラを横目に、準備完了したアニーは楽しそうに問いかける。
たしかに綺麗ではある。気分もアガる。が、同時に恐ろしくもある。味の見当がつかない。
「……そうだけど、これは? なに?」
ギブアップして解答を求めた。甘いのか、苦いのか、酸味なのか、それとも辛い……はなさそうだけど。ぜひとも意見を聞きたいところ。
「気になりますよね、実はそれがこの紅茶の味を変えるんです。では、行きましょう」
トレンチを持つアニーの手が軽い。楽しい時はいつも、体がフワフワと軽やかに舞いそうになる。
ついて持っていく。それで自分の仕事はひとつ終わるが、ウルスラは少しだけ自分の欲を出してみる。アニエルカ・スピラ。この子はきっと——。
「一緒に見てても、いい? もちろん、混んできたらそっちに行くから」
この店のことをもっと知りたいし、知らなきゃいけない。長く続けるのであれば、そしてこの少女達により近づくのであれば。そのためにもまず、店長であるアニーのやることを学ぶ。
まわりを見渡し、まだ少し時間的にも客数としても余裕はある。それまでであれば、とアニーも許可。
「どうぞどうぞ。紅茶いいっスよね、香りだけでも生きててよかった、ってなります」
調理台には、飲み終わったカップとソーサーが一式。すでに紅茶は体内に補充した。目がパッチリと冴え渡る。




