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134話

 バックヤード。ドアを隔てた更衣室では、ウルスラが制服に着替えている。「ゆっくりでいいから」とカッチャに言われてシャツを手に持ったものの、少しサイズが合わないかもしれない。というかディアンドルがハンガーにかけてある。誰が着るんだろう。

 

「ウルスラってさぁ、バイト初めて?」


 ドア越しに見守るカッチャが、暇なので声をかけてみた。無言というのも気まずい。こちらから話題を提供せねば。


 私服を脱いでロッカーにかけつつ、ウルスラは返答する。


「いえ、ちょっと前まで書店で働いていました。本とか映画とか好きで」


 紙の本に囲まれていると、静寂も手伝い、時間がゆっくり過ぎていくのを感じる。それが好きだった。早く終わってほしいと思うこともあったが、その静謐な空間が、なんだかとても贅沢なようで。


 とすると、カッチャには疑問がひとつ。


「なんでカフェにしたの? 書店で変な客がいたとか?」


 変な客ならカフェにもいるよ、と事前に情報を共有しておく。思ったのと違った、と言われても嫌だし。心構えをしておくべきだし。


 やはり少しサイズが合わない。でもどうしようもないのでウルスラは諦めつつ、過去を思い返す。


「そういうことではないのですが……色々と考えることがありまして。心機一転してみようかと。コーヒーも好きですし」


 朝はインスタントのコーヒー。いつもお湯の量を間違えて濃くなったり薄くなったり。だがカフェなら本格的な淹れ方も勉強できる。一石二鳥だ。


 色んな理由で働く人がいるんだなと理解を示しつつ、カッチャはさらに深入りしていく。


「ふーん……じゃあ他にもたくさんカフェあるけど、なんでウチにしたの? って、面接みたいになってるわ」


 自虐するが、更衣室からはクスクスと笑う声。少し打ち解けたかな。


「同じ学校の子が働いているって聞いていて。面識はないのですが、名前だけは知っていたので、つい」


 書店では同じ年代の子がいなかったため、中々話が合わなかったりで、窮屈さを感じたこともあった。どちらかというと引っ込み思案なウルスラではあるが、話せる相手がいるほうが落ち着ける、かもしれない。


 ドアに寄りかかりながらカッチャが理解を示す。かなり落ち着きのある子だ。カフェ向きかも、と今の時点で思案。


「まぁ、いいんじゃない? 人手が足りてないからねー。てか、制服キツくない? 大丈夫?」


 忘れてた、と慌てて確認する。あたしの見立てじゃ小さいと思った。ある一部分だけ。ぬぅ。羨ましい。

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