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132話

 しかし独特な注文の仕方にクルトは疑問符。


「……? どういう——」


「任せてくださいっス! ちょうどいいのがあるんです!」


 そのハテナマークをバッサリと両断するように、元気よくアニーが了承する。やっぱこうこなくちゃ。コーヒーばっかり頼む文化にメスを入れたい。


「この子はね、その人にぴったりの紅茶を淹れてくれるんだよ」


 信じがたいけどね、とマクシミリアンは戸惑うクルトに説明を入れる。だが、不思議とハズしたことがないおまかせセット。あまりお目にかかれない北欧のお菓子も美味。


 だが、いきなりそんなことを言われても、初対面のクルトは信じることはできない。まだ好みの紅茶の種類すら伝えていないのに。


「ぴったり? どうやって?」


 その問いにはアニーが目を輝かせて胸を張る。


「それはもう、勘です!」


 そんなの決まってるじゃないですか、と強く頷く。エスパーじゃあるまいし。まだ自身の嗅覚について、よくわかっていない。


 一瞬、自信満々なカミングアウトに静まり返った空間だが、補足を付け足すのはマクシミリアン。なぜあたしが。


「……いや、ほら、鼻がいいからさ。そこから色んなものを読み取れるらしい、のよね」


 自分も中々の奇行ぶりは自覚しているが、無自覚でやっているこの子はこの先、無事に生きていけるだろうか。そんなことを心配してしまう。


 引き攣った笑いを浮かべながら、クルトは荒唐無稽すぎて再度信じられなくなる。


「……はは、そんなバカな。なら私が今、どんなもの求めているかわかるとでも?」


 そんな力があったら、他のなにか違う使い方で世界を牛耳れそうだ。カフェで働いている場合ではない。


 別にバカにされているわけでもないが、なんとなく態度がアニーをムッとさせる。


「わかるっスよ。そうっスねぇ……一番感じるのは『焦り』ですかね。なにか得体の知れないものを見て、どう対処すべきかわからない、というような『恐怖』。あとは『怒り』もあるかもです」


 となると、紅茶はアレで。そんでもってお菓子もアレで。ハズレを引いた時、今からどんな表情をするか楽しみっス。案外、根に持つタイプだ。


 それを一歩引いてマクシミリアンは傍聴する。


「……まぁ、匂いがなくてもそんな風な気もするけど……」


 なんとなく、勝負のような流れになっている? もしかしたら連れてきたのは間違いだったかもしれない、そんな予感が生まれてきた。アニーは破天荒に場をかき乱す子だが、安い挑発に乗るとは思わなかった。彼女としては普通に相談に乗ってくれればよかった。

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