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131話

 難しい顔をして自身を凝視してくる男性。値踏みされているような、そんな雰囲気にアニーはたまらず真相を探る。


「こちらの方は誰っスか? ショコラーデ関係の方ですか?」


 甘い、だけじゃなく、ほろ苦い。体に染み込んだピラジン類やエステル類の香り。わかりやすい……のは彼女にだけだ。カカオはローストした時にその香りが花開く。それを浴びるということは、お菓子作りが趣味です、なんて人では絶対にない。


 まだ自分の情報はなにも与えていないはずだが、一気に接近された。ゾクっとした冷や汗をかきながら、男性は視線の先を変更する。


「……どういうことですか、マクシミリアンさん」


 服だって私服に着替えてあるし、飲食に関する、とかでもなくショコラーデであることまで見抜かれた。M.O.Fの試験よりも緊張が走る。無垢なこんな小さな少女に。


 その焦った姿を感じ取り、マクシミリアンは満足。終始冷静なショコラティエの仮面が剥がれる。騙すのは好きだが、人が騙されているのもまた乙なもの。


「彼女は人一倍、鼻が利く子でね。匂いだけで色々読まれるよ。ヒヒッ」


 もっと見ていたい、いや、聞いていたいが、揶揄うのもこのへんにしておこう。


「フリースラントではみんなできます。成人通過儀礼です」


 もちろんそんなこともなく、さらに言えばアニーはまだ成人ですらないが、自信はある様子。悩んでいるのはこの男性……? とあたりをつける。ショコラーデ……まさか、今日のボクのオヤツを持ってきてくれた?


 深く自身の深層に潜って自問自答していた男性だが、意を決して右手を伸ばす。


「……にわかには信じられませんが、マクシミリアンさんがそう言うのであれば、信じるしかないですね。いや、申し訳ない。クルト・シェーネマンです。よろしく」


 なにか他の人とは違う。とすると、彼女と振るサイコロの目は面白いものになるか? と賭けに出た。失敗したらしたで、勉強にはなる。デメリットはない。時間が取られるだけ。


 握手を求められたことに気づいたが、アニーはわけもわからずとりあえず握る。出されたらそのままというのは申し訳ないし。悪い人ではなさそうだし。マクシミリアンさんの連れだし。


「アニエルカ・スピラです。アニーでいいっス。で、どういったご用件ですか?」


 オヤツはどこですか? と聞きたいところだが、一応ワンクッションおいて。ガッつくのもはしたないし。

 

 ひとつ咳払いしたクルトが「それはですね」と本題に入ろうとしたところで、マクシミリアンが手で制す。


「まぁまぁ、そんな急がずに、まずは紅茶を飲もうじゃないか。あたしとこの人に合ったの、よろしく」


 カフェについたらまずは飲み物。アニーに向けて注文を入れた。いつもの注文の仕方。ここではコーヒーではなく、アニーがいる時は紅茶を頼むようにしている。なにが出てくるかわからない。そんな楽しみがあるから。

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