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130話

 一方、呼ばれたアニーは壁側のテーブル席へ。ソファとイスで分かれたタイプの座席ではあるが、それぞれにひとりずつ座っている。待ちわびている、とでも言うかのように、ソファの女性はふんぞり返っている。


「あ、マクシミリアンさんじゃないスか。どうしたんですか? なにか相談でも?」


 常連のお客さん。いつも可愛がってくれるし、なにかしら奢ってくれるいい人。だがなんとなく、濁った感情が読める。こういう時は、なにか隠している。まん丸の目で表情を伺う。


「……まだなにも言ってないんだがね」


 苦笑しながらマクシミリアンは肩をすくめた。簡単に腹の中を探られてしまう。読み合い、騙し合いの世界で生きてきた彼女にも、白旗を上げる相手がいるとすればアニー。とはいえ、悪用しないから好き。一度座り直して場を整える。


 褒められた気がしたアニーは、恥ずかしがりながらも笑みを浮かべる。自分を指名してくれる人がいる、ということだけで嬉しい。力になれているような気がして。


「へへ、そんな匂いがしたっス」


 嗅覚とは味覚と同意義。研究などにより、太古の人類が持っていたことが予想されている鋭敏な嗅覚。五感の中でも長年、劣等な部類とされてきたが、鋭さを増すと良くも悪くも武器になる。たまに裏まで読めてしまうのがネック。


 紅茶の専門家、そうマクシミリアンからの紹介を受けていたので、イスに座っている男性は驚きを隠せない。


「……彼女が……? まだこんな若い……?」


 それこそ紅茶商を定年で引退した歴戦のベテラン、くらいを予想していたため、目の前の可愛らしく首を傾げる少女に違和感。本当か? これならまだ自分のほうが詳しいのでは? と邪推する。


 その驚嘆ぶりもマクシミリアンには予想通り。存分に驚いてくれ。


「そうだよ。アニーちゃん、紅茶好きだよね?」


 着火の準備。紅茶について語っていい、とアニーは捉えた。さらに破顔する。


「もちろんっス! フリースラントの人間は酸素と紅茶だけで生きていけるっスよ! 最近のオススメは寒くなってきたのでミルクティーなのですが、スリランカで飲まれるミルクのみの『キリカハタ』なんかは、この国の好みにもよく合う——」


 猛烈な勢いで喋り通すアニーに気圧されつつ、男性は気になる単語を掻い摘む。紅茶といえば。


「フリースラント……なるほど、本場の方、ということですね」


 聞いたことはある。ひとり当たりの消費量が世界一の地域が、ここドイツにあると。その場所はフリースラント。その出身、ということか。両親もそうであれば、サラブレッドと言っていいのかもしれない。ならば、紅茶についてであれば、自分よりも知識はあるか。

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