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129話

「はいっス。ユリアーネさんにもついに後輩ができるわけですね」


 了承しつつ、アニーはユリアーネに話を振る。彼女の場合、常に落ち着いていたので特に教えることもなかったが、はたして新しい人はどうだろうか。お友達になれたらなおよし。


 後輩……と言われてもユリアーネはピンとこない。


「そう……なりますか。ですがまだ私も新人ですし、あまり変わらないと思いますけど」


 まだひと月も経っていない。濃密な期間だったので、半年はやっていたような気もするが、まだわからないことも多い。いいのかな、と思いつつも、自分がしっかりしなきゃと奮い立つ。微力ながら支えねば。


 話し合いはここまで、時間がきたので、アニーは気合いを入れる。


「さぁ、今日も働くっスよーッ!」


 鼻歌を口ずさみながら軽快にドアを開けようとすると、反対側から開いたので「?」と手が止まる。魔法?


 そして向こう側から顔を出してきたのはカッチャ。目の前のアニーを手招きする。


「アニー、あんたにお客さん」


「い? ボクっスか?」


 誰だろう、と予想するが、多すぎてわからない。初めて来店された人とは話し込むこともあるし、店長の気まぐれ紅茶セットをいつも頼んでくれる人もいる。アントニオさんか……? と適当に予想しつつ、「はーい」と返事をして向かう。


 ぽわぽわとした空気感に冷たい目を向けつつ、カッチャは会話の先をダーシャに向ける。


「あと店長、新人来ましたよ」


 予定よりも時間が早い。真面目だな、と高評価。


 それを聞き、アニーは驚く。先ほどから楽しみにしていたこと。それは自分の役割。


「え、ボクが教えることに——」


「早く行け」


 なんでもかんでもひとりで背負い込もうとする年下を、カッチャはうまくいなす。


 明らかに不満な顔をするアニーだが、色々とカッチャには逆らえないため、渋々従う。別に自分には重荷ではないが、誰か人を待たせている以上、あまり噛み付いていられない。


「ぬーん……」


 先ほどまでの軽やかさはなく、足音から聞こえるのは不平。トタトタとホールへ駆けていく。


 そして次の仕事。新人アルバイトへの教育。キッチンはともかく、まずはホールで注文を受けることから。難しいことではない。適当に席につくお客さんにまず飲み物、そして手を挙げたりなどで呼ばれたら、料理を聞いてメモする。そして届ける。


 とはいえ、まずは見本を見せなければならない。誰にするか、とダーシャは悩む。アニーは行ってしまったし、ユリアーネでもいいが、一応オーナー。


「うーん、どうしようか。カッチャちゃん、頼める?」


 頼りになるお姉さん、という立場と発言力。褒めるところは褒めるし、厳しいところは厳しい。トレーナー向きだ。アニーよりも最初からこちらにしておいたほうがよかったかも、と納得する。


 年代的にはアニー達と同じ子なので、てっきりユリアーネかと見切っていたカッチャは舌を翻す。


「わかりましたけど、いいの? 私で」


「うん、大丈夫。とりあえずは着替えてもらおうか」


 事前に聞いていたサイズの制服は、ロッカーにある。ダーシャはあとのことをカッチャに頼んだ。


「わかりました、呼んできます」


 踵を返し、指示された通りにカッチャは一旦、窓際の席につかせておいたその子の元へ。ガラス越しに外の様子を見ながら、イスの先端にほんの少しだけ座っている。真面目だな、たぶん、と予想した。


「おまたせ。まずは制服ね。えーと、名前なんて言ったっけ?」


 最初に聞いたのだが忘れた。それよりも、気になる部分があったから。アニーやユリアーネは小柄。制服も小さいサイズ。二人と比べて同い年にしては、ある一部分が突き出している。ハッ、とおじさんのような目線で見ている自分のおかしさに気づく。


 その少女は振り向き、少しビクッとして返事をした。内気な性格。


「え、あ、はい……ウルスラ・アウアースバルト、です」


 そう名前を伝え、席から立ち上がった。

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