128話
先読みされてアニーは渋々承諾する。
「……はいっス……」
ヒゲにガムテープを貼り付けて引っこ抜いてやろうか、と怒りの捌け口の謀略を巡らすが、数日前に剃られてしまったことを思い出して落ち込む。ダーシャというキャラクターの認識を改めなければならないため、少し大変。
「頼みましたよ、アニーさん」
数日だけですから、とユリアーネは安心させる。それは彼女を? 自分を? そして、共にモンフェルナ学園へ向かう『あの方』。少し緊張が増してきた。
なにかを言いかけたアニーだったが、飲み込んで言葉を変える。
「……はい。でも、たしかにもうひとりくらいはアルバイト募集したいっスねぇ。こんな感じで、誰か抜けることはあるわけですから」
客数は年々右肩上がり。少しずつ認知されてきていることと、他にはないエッセンスが効いていることで、お店は潤ってきてはいるが、その結果少しずつ負担も増える。ビロルも大学院に行く可能性が高い。となると、人手は必要になってくる。
一週間離れる、と言った手前、さらにユリアーネの気は重くなる。
「……たしかに……クリスマスマーケットが近づくにつれ、どんどん観光客が増えているのはわかりますね。場所によってはもう始まってますから」
ヨーロッパ全土でクリスマスマーケットは盛大で、特にドイツは有数の煌びやかさを誇る。ベルリンも例によって、膨大な数の観光客で忙しくなっていく。今のうちに是が非でも欲しい。
業務の拡大もアニーは見越して、策を練りたいところ。
「それに、目の前でコーヒーを挽くとなると、また人手がかかりそうっス。せめてあとひとり……」
募集は出している。いることはいるが、ユリアーネ目当ての男性はアニーが見抜いて落としている。それは断固として許さない。
理想的な流れになったことに感謝しつつ、明るくダーシャが話題を提供する。
「そんなこんなで、実はひとり、新しいアルバイトの子が来ます。面接もキミ達がいない時にやったから、勝手にこっちで決めちゃったけど」
「! マジっスかッ!? 可愛いっスか!?」
留学の件で落ち込んでいたが、今日一番の喜びをアニーが表現する。なんとなく、こういう喋り方をするときのダーシャは、良い時のダーシャ。こっちの希望通りの結果を出してくれる。なので女性な気がする。
まぁまぁ、ととりあえずダーシャは興奮したアニーを落ち着かせる。
「いや、なんで決めつけるのよ。まぁでも、予想通りの女性だね。キミ達と同世代だそうだから、仲良くしてあげてね。そしたらアニーちゃんお願いしていい?」
と、簡単にではあるがコーチとして割り当てた。とりあえずキッチンよりかはまずホールのほうがいいだろう。近い年代のほうが話せるし、自分よりかは適任だ。




