120話
「新しいショコラってのはどれだい?」
ビビッドな緑のカラーパンツや、目の醒めるような虎柄のコート。派手な服装に身を包んだ老婆は、ピカピカに磨かれたショーケースの前で、男性にショコラについて尋ねた。
ベルリンはクロイツベルク区。移民が多く、エスニックな店も多数点在するこの地区ではあるが、ノイケルン区との境目は『クロイツケルン』と呼ばれ、最先端のカフェやサロン、ショップが立ち並ぶ人気の場所。
そこの人気ショコラトリー『クルト・シェーネマン ショコラーデハウズ』。名前の通り、クルト・シェーネマンという男性がオーナーを務める、まだ比較的新しいショコラトリー。そして、そのクルトというのが、まだ三〇代に突入したばかりのこの男性。
「はい、真新しいというわけではありませんが、カカオから見直しまして、合う茶葉をブレンドいたしました。トルコの茶葉、というとなかなかピンとこない方も多いかと思いますが、オーガニックでスッキリとした飲み口なんです」
はっきりとした口調で受け答えする。襟元にはトリコロールの模様のついた調理服。新作のティーショコラを四つ、小皿に出して老婆に提供した。健康志向は、売れる要素になる。少しずつ、紅茶を飲む人口も増えてきた。先取ってみる。
クリスマスの近づく季節、ケーキやらシュトーレンやら、ショコラーデは注目度が増す。足を運ぶ客数も増える。ならば、とこの時期、小さめの新作を投入。それがティーショコラーデ。あまり出している店はない。だからこそ。
「オーガニックねぇ……」
未来を見据えて摂るのも大事だが、老婆にとっては今も大事。味の濃いもの、糖分塩分気にせず生きたい。
店内にお客はいるが、それぞれ思い思いの商品を選ぶ。他のショーケースにも、プラリネやボンボンといった定番品が美しく並べられ、壁にもガラスのラック。そこにあるナッツのクリームやコンフィテュール、ココアパウダーなどの商品を眺めている。
その中でも一際目立つ老婆は、ショコラをヒョイっと掬い、口の中に放り込む。舌先で転がし、溶かしていくと、ニンマリと笑う。
「なるほど。さすがM.O.Fを獲得しただけあるね。フランスに支店を出してもいいんじゃないかい?」
彼女からしたら最上級の褒め言葉。フランスにおけるM.O.Fは、国家最優秀職人章。花や料理、宝飾品や香水から理容師など、文化における高度な技術を持った職人にのみ贈られる、最上級の賞である。フランス、とはいっても、それ以外の国の出身でも取得は可能。




