表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/319

120話

「新しいショコラってのはどれだい?」


 ビビッドな緑のカラーパンツや、目の醒めるような虎柄のコート。派手な服装に身を包んだ老婆は、ピカピカに磨かれたショーケースの前で、男性にショコラについて尋ねた。


 ベルリンはクロイツベルク区。移民が多く、エスニックな店も多数点在するこの地区ではあるが、ノイケルン区との境目は『クロイツケルン』と呼ばれ、最先端のカフェやサロン、ショップが立ち並ぶ人気の場所。


 そこの人気ショコラトリー『クルト・シェーネマン ショコラーデハウズ』。名前の通り、クルト・シェーネマンという男性がオーナーを務める、まだ比較的新しいショコラトリー。そして、そのクルトというのが、まだ三〇代に突入したばかりのこの男性。


「はい、真新しいというわけではありませんが、カカオから見直しまして、合う茶葉をブレンドいたしました。トルコの茶葉、というとなかなかピンとこない方も多いかと思いますが、オーガニックでスッキリとした飲み口なんです」


 はっきりとした口調で受け答えする。襟元にはトリコロールの模様のついた調理服。新作のティーショコラを四つ、小皿に出して老婆に提供した。健康志向は、売れる要素になる。少しずつ、紅茶を飲む人口も増えてきた。先取ってみる。


 クリスマスの近づく季節、ケーキやらシュトーレンやら、ショコラーデは注目度が増す。足を運ぶ客数も増える。ならば、とこの時期、小さめの新作を投入。それがティーショコラーデ。あまり出している店はない。だからこそ。


「オーガニックねぇ……」


 未来を見据えて摂るのも大事だが、老婆にとっては今も大事。味の濃いもの、糖分塩分気にせず生きたい。


 店内にお客はいるが、それぞれ思い思いの商品を選ぶ。他のショーケースにも、プラリネやボンボンといった定番品が美しく並べられ、壁にもガラスのラック。そこにあるナッツのクリームやコンフィテュール、ココアパウダーなどの商品を眺めている。


 その中でも一際目立つ老婆は、ショコラをヒョイっと掬い、口の中に放り込む。舌先で転がし、溶かしていくと、ニンマリと笑う。


「なるほど。さすがM.O.Fを獲得しただけあるね。フランスに支店を出してもいいんじゃないかい?」


 彼女からしたら最上級の褒め言葉。フランスにおけるM.O.Fは、国家最優秀職人章。花や料理、宝飾品や香水から理容師など、文化における高度な技術を持った職人にのみ贈られる、最上級の賞である。フランス、とはいっても、それ以外の国の出身でも取得は可能。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ