103話
「てことは、ユリアーネさんのディアンドルが見れるってことっスか!?」
アニーの気づいてしまった事実に、「しまった」とユリアーネは冷や汗を流す。
「……場合によっては」
混まなければ着なくていい。祈るのもおかしい話だが、できれば着たくない。
しかし、アニーはもうその気になって、ひとりで盛り上がっている。明日も頑張れそうな気がする。
「行きましょう! 明日は休みっスよね!? 店長とテオさんにはボクから言っておくっス!」
ユリアーネには休んでもらう、とダーシャに提案していたはずだが、事情が変わった。疲れ? それは働いて吹き飛ばせばいい。
言ってしまった手前、とりあえず行くことは確定してしまった。ユリアーネは少し覚悟をする。
「……早く寝ましょう。明日は七時には出ますよ」
「はいっス! いやー、楽しみですねぇ」
何色かなー? と、すでに着ることになっているアニーの脳内。今日の疲れはもうない。早く明日になれ。ポジティブなことしか考えられない。
ふぅ、と息を吐き、焦りを見せるユリアーネだが、楽しみもある。
「……私も、アニーさんのディアンドル、楽しみです」
聞こえないようにそっと呟く。心に留めておく。
「ふふふ」
もうすでに想像する世界に飛び込んだアニーは、緩みきった顔の筋肉が戻らず、そのまま眠りにつく。
†
日曜日はドイツでは基本的に休日で、サービス業であってもそれは変わらない。しかし、カフェやレストランは開いているところも多々ある。観光客が多いこともあり、そういったところはうまく調整してあるのだ。
都心部ではないが、食に関することはなんでも請け負うブッフは、日曜日も開いている。カフェでは、モーニングセットを用意しているところは多いが、そこも完備。朝は九時からやっている。
「いいところですね。とても落ち着きます。風が爽やかです」
昨夜、アニーから聞いていた風車。そしてそこからの眺め。朝早く、吐く息も白い。少し肌寒いが、空気が澄んでいて気持ちいい。自分のアパートはどっちだろう、とユリアーネは遠くまで見渡す。
「ですよね。小旅行って感じがします。初めての旅行っス」
ユリアーネと二人きりの、という修飾語はつけないでおくが、この場所が二回目のアニーも、昨日と違う朝の時間の眺めを楽しむ。
しかしそこはユリアーネがしっかりと釘を刺す。
「旅行ではないですよ。アニーさんは仕事、私は必要があればお手伝い、というだけですから。気を抜かないでください」
あくまで仕事、ということを強調する。そして、自分はディアンドルは着ない、と念じる。




