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14 Glück 【フィアツェーン グリュック】  作者: じゅん
アニエルカ・スピラ
10/319

10話

 アニーが指で写真フレームを作り、片目でユリアーネを覗いている。


「ふむふむ」


「……なにしてんの?」


 たまらずダーシャが疑問を問いかける。


 作業を続けたまま、アニーは眉を顰めて唸る。


「いや、視界にビロルさんが入り込んでくるので、うまく消しながら良い構図を探してるんです」


「俺、なんかした? さっきから」


 収拾がつかないため、ダーシャが先に進める。この二人がいるとなにもかもが台無しになってしまう。ひとつ咳払いし、場を正した。


「申し訳ない。ダーシャ・ガルトナーです。えーと、ユリアーネ・クロイツァーさん。まず志望動機をお願いします」


 と、会話を促す。アニーとビロルはなんだかんだ戻りそうにないので、放置しておくことにした。そのうちカッチャが迎えにくるだろうと予想。渡された履歴書を見ながら、話をすすめていく。


 声をかけられ、静かにユリアーネは口を開いた。


「はい、コーヒーが好きで、将来は自分のお店を持ちたいと思い、その勉強として応募させていただきました」


「紅茶はどうっスか?」


 結局、横からアニーが入ってくる。美少女ということでウキウキしているようだ。満面の笑みで問いかける。肯定的な返答を期待していたが、


「紅茶はあまり。ほとんどコーヒーです」


 と、ユリアーネに否定され、アニーは少ししょんぼりとする。


「もう採用でいいんじゃないですかー? 人数いた方がいいのは本当だし、接客とかもよさそうだし」


 それに可愛いし、という言葉もつけたそうとしたが、ビロルは一瞬で引っ込めた。あまりほいほいと可愛いを言うと、軽い男に思われる可能性がある。焦らせるくらいのほうがちょうどいい。この子は責任感のあるアニキが好きだ。そうに違いない。そうであってくれ。


「そうっスよ。どうせボクの店に引き抜くつもりなんで、ボクが教育したいです」


 さらっと邪な考えを流しながら、アニーはユリアーネの背後にまわり両肩を軽く叩く。 予め確保しておこうという魂胆のようだ。


 隠そうとしないアニーにダーシャは乾いた笑いを浮かべる。


「そういうのは心の中で思っててくれる? でもどうしてウチの店に? ベルリンにはたくさんカフェはありますよね?」


 とりあえず、ありきたりな質問をする。だが実際にベルリンにはかなりの数のカフェがあり、それぞれコンセプトがあるお店も多い。理由を問うてみる。


 しかし、その間にアニーが割って入る。


「そんなもん、どうだっていいじゃないっスか。採用です、採用」


 ふくれっ面で強引に話を進めようとする。


 少し恥ずかしそうにしたユリアーネは、はにかみながら口を開いた。


「コーヒーの……導きです」


「え?」


「お?」


 なにやら聞き慣れない会話の流れになり、ヴァルトの面々は発言の内容を反芻して飲み込む。が、うまく消化できず、ユリアーネが次に発現するまで待つことになった。


 タイミングを見計らって、肩をこわばらせながらユリアーネは続けた。やはりそういう反応になりますよね、と前置きをしつつ。


「趣味でコーヒー占いをやっているのですが、それでここしかない、と出ました」


 数秒、自身で思案してみたが、埒があかないのでアニーはダーシャの方に顔を向ける。うわ、美少女からのおじさんはキツい。


「店長、コーヒー占いってなんですか? 四〇なんだから詳しいでしょ」


「なんだからって何よ。まだ三八だし。たしか、トルコとか中東あたりで、昔から伝わる占いだったかな。飲み終わったカップに沈殿した模様で占うとか」


 うろ覚えだが、たしかに聞き覚えがあるダーシャは、脳裏にある情報をまとめてみる。しかし実際にやったことも、見たこともない。聞いたことあるだけ。

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

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